TAKE 13 秘密の関係

1/1

1174人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ

TAKE 13 秘密の関係

『役柄と同じように、秘密にしような。俺達の関係w』  シャワーを浴びてベッドに転がっていると、享祐からメールが来た。最後にwが付いている。  うん。そうだな。相馬と駿矢も自分たちの関係を隠しているんだ。駿矢はどっちでもいいんだけど、大事な跡取り息子である相馬亮はそういうわけにはいかない。  もし、バレてしまったら、たちどころに引き離されてしまう。最悪、どこかの令嬢との結婚を勝手に進められると怯えていたんだ。  ――――まあ、僕らも本気の関係だったら、同じようなもんだな。イメージ的にはマイナスだろう。  なんでもいいから売りたい僕の事務所はともかく、享祐の事務所、特に敏腕マネージャーは許さないだろう、絶対に。『役作りのため』と言っても、難色を示すかもしれない。  ――――だけど、秘密の関係とか、刺激的だー。萌ゆるよっ。  それでも今夜、あんなにロマンティックなシチュエーションなのに享祐は何もしてこなかった。ただ抱きしめるだけで。  まだ二話めの本が来てないからな。それとも、いきなり積極的になった僕に戸惑ったとか? ううむ。  ――――なんだ、僕は……。結局キスして欲しいと思ってたってことか?  ベッドの上、一人で体を熱くする。頭も顔も……色んなところが熱くなって反応してる。 「いかんっ! これはお芝居の延長なんだ。憑依型だって、どこかでそれを客観的に見る自分がいなくてはっ」  悪夢に覚めたごとく飛び起きた僕は、誰もいない部屋で叫んでしまった。    翌日、CM撮影の現場に行くと、マネージャーの東さんがニコニコ顔で出迎えてくれた。 「脚本、出来上がって来たのでお渡ししますよー」 「あ、ありがと」 「絶好調ですよね。私も次回が待ち遠しくて」 「え? ほんと? 僕の演技、大丈夫かな」  撮影用のメイクを施してもらいながら、鏡越しで東さんの顔を覗き込む。  小柄でぽっちゃりした容姿で、人当たりがいいマネさん。丸顔をさらに丸く膨らませて頷いた。 「引き込まれましたよ。男の私でもこうだから、女性ファンにはたまらないでしょう。これは私見ですけど、原作ファンにも絶対受け入れられると思いますよっ」  全くの私見だな。しかも希望的観測の。  そうなんだ。僕が怖いのは『原作ファンの皆様』。今までどれほどの実写化ドラマの俳優がコテンパされたか。漫画でも小説でも、そのハードルは富士山ほど高い。今回はまだ小説だからマシかもだけど、僕はとてもビビってる。  ただ、SNSを覗いた感覚では、思ったほど悪くなかった。特に享祐さんはイメージぴったりと言われてるんだ。それはそうだろう。原作者は、享祐をイメージして書いたと公言してるんだから。 「ネットで見たんですけど、越前さんだけでなく、伊織さんの前評判も悪くないから心配しすぎることはないですよ」  僕の気持ちを察してか慰めてくれた。本当にそうだと有難いんだけど……。僕はこのごろ怖すぎてエゴサしてない。  ――――でも恐れずに行こう。これから実生活でも享祐の恋人になるんだ。嘘の恋人だけど、本気でぶつかるんだ。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1174人が本棚に入れています
本棚に追加