TAKE 15 本番さながら

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TAKE 15 本番さながら

 享祐の逞しい腕に抱きしめられ、鼻腔に漏れ漂うワインの香りにうっとりしていた。そこに、唇を割って入ってくるものが。  ――――え……、ま、待って……。  享祐の舌が僕のそれを探すように口の中で蠢いている。僕は反射的に身じろぎするけど彼の両腕に力が加わりうまくいかない。  ――――や……やっぱり本番さながら。  僕は意を決して享祐の背中に腕を回す。そして僕の舌を求めている享祐のそれに絡めた。 「んんっ……」  息が出来ない。お芝居とは到底思えないほどの、文字通り『熱烈』なキスだ。でも……。  ――――止まらない。熱情が溢れてくる。享祐が『好きだ』って気持ち。  これは演技なんだから。こんなに夢中になっちゃ駄目だ。わかってるけど。 「好きだ……」 「え……」  ようやく離した唇から思いも寄らない言葉が……。 「駿矢……」  けれど、僕が息を呑むのと同時に放たれた名前。僕の上がりまくったテンションがすっと消えた。  ――――そうだよね。馬鹿だな、僕は。  脚本ではその後のセリフはない。『好きだ』もないので、アドリブだ。本番で言うかはわからないけど。  僕はゆっくりと体を離す。本当はもう少し、享祐の花のようなフレグランスに包まれたかったけど。 「どうだったかな? 僕、凄く感情移入した」  顔がまだ熱いまま、僕は享祐を見上げる。けど、期待した笑顔はそこにはなく、享祐は僕を真剣な眼差しで見ている。  どうしたんだろう。何か僕は失敗したのか。意外そうな顔をしたのだろうか。享祐はふと固かった表情を緩め口元に笑みを浮かべた。 「良かったよ。本番もこんな感じでやれればエモーショナルなシーンが撮れると思う」 「そう? 良かった」  僕はほっと胸を撫でおろした。本気で挑んだんだから、感情移入もないもんだけど。演技になっていたなら御の字だ。  それから、僕らはソファーに戻ると、台本を取り練習を続けた。気付けば日付が変わっていて、僕は慌てて自分の部屋へと帰った。
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