TAKE 22 トレンド入り

1/1

1174人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ

TAKE 22 トレンド入り

 どうしよう。僕は本気で享祐のことが好きだ。芝居なんかどうでもいい(いや、どうでも良くはない)。  このまま、体を重ねることを願ってはダメだろうか。盛り上がった気分のまま、縋ってはいけないだろうか。抱いてと言っては……。  ――――何考えてる。駄目に決まってる。これは嘘の関係なんだ。享祐は僕の役作りに協力してくれてるだけだ。その思いに、期待に応えなくてどうする。  僕が暴走したら、困惑どころか迷惑をかけてしまう。享祐の腕の中で呼吸を整えながら、僕は動けないでいる。離れなければとわかっていても、離れがたかった。  けれど、このタイミングで僕のスマホが振動した。物凄く取りたくなかったけど、そんなわけにはいかない。  体を起こし小さな吐息をついてから手に取った。東さんだ。 ――――なにか問題でもあったのかも。  急に現実に引き戻された。罵声の嵐だったりしたらどうしようっ。 「はい……東さん、どうしたの?」  恐々に声を出す。隣で享祐がどういうわけかふっと笑う音がした。 『どうしたじゃないですよ! 伊織さん、ツイッタ見てないんですか?』 「え? ツイッタ?」  そう言えば、配信と同時にツイッタを連動するとか言ってた。  配信サービスの場合、いつでも観られるから視聴数の動向が瞬時にはわかりにくい。だからこんなふうに、感想を共有するツイッタ企画を立ち上げ、動向や評判を測るんだ。 『ハッシュタグ最初で最後。トレンドランキング入りしてますよ!』 「えええーっ!!」  僕は掛け値なしに驚いた。思わず大声を出し、享祐の顔を見上げる。あいつは自分のスマホを僕に見せた。 「ほんとだ……トレンド入りしてる……」 『しかも、総じて高評価ですよ! やりましたね、伊織さん! まずは第一関門突破、いや、もう大成功と言っていい!』  それは言い過ぎだろう。でも、第一関門突破は間違いない。次も見てくれる人が多ければ、好スタートと言っていい。 「享祐」 「当然の結果だ。だけど、やったなっ!」  口角がすっと上がる。僕はもう一度享祐の胸に飛び込んだ。でも、今度は俳優、三條伊織としてだ。  それでも心臓がバクバク言ってる。体中に熱が巡って今にも爆発しそうだよ。 「良かった……よかったぁぁ」  涙が溢れて流れていく。 「あ……ごめんなさいっ」  享祐の洋服を汚しちゃ大変だ。僕は慌てて離れ、顔をティッシュで拭いた。  興奮、感激、安堵。全ての感情がぐるぐると回り、安堵に落ち着いていく。僕は大きな息を吐き、ソファーの背もたれに体を預けた。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1174人が本棚に入れています
本棚に追加