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TAKE 25 結果が全て
一体なんだったんだろう。嫌な感じだった。享祐は明らかに憮然としていた。
――――林田監督が言いたかったのは何? それを享祐が制したのはどうしてだろう。
「ねえ、東さん」
「はい? どうしました?」
自分の事務所へと戻る道すがら、僕は車を運転する東さんに尋ねた。
「このドラマのキャスティングって、どうやって決まったの? オーディションなかったけど」
「ああ、それは……」
ハンドルを握りながら、東さんは思い出す仕草をした。
「そうだ。林田さんの方から、候補に挙がってるって話が来たんですよ。伊織さんも私も知らなかったことです」
「候補に?」
「はい。それでスケジュールとか、受ける気はあるかとか聞かれたそうです。事務所はもちろん二つ返事で応じたようですが」
「そうなんだ」
全く僕には知らせずに答えてんのか。酷いな。まあ、事務所としては、願ってもないと思ったんだろうけど。
「落ちたらショックだから。事務所も考えたんだと思いますよ」
僕が憮然としたのが分かったのか、東さんがフォローしてきた。
「本当にそう思ってる? ま、僕も断るわけないけど」
にんまりと口角を上げる東さん。丸い顔が恵比寿さんのようになる。
「それで、何人か候補がいたみたいですけど、そのなかから伊織さんが選ばれたんですよ。これは誇って下さいね。それに監督の目に狂いはなかった。今の評判を考えたら……」
「享祐……越前さんは、希望を言ったりしたのかなあ……」
「え? さあ、それは聞いてませんけど。でも、越前さんは発言力のある俳優さんだから、打診はしたかもしれませんね。良かったじゃないですか、そこでも合格だったんですよ」
「あ、ああ、うん」
どうだろう。打診をした、か。その程度のことなのかな。享祐に選ばれたのならそれも嬉しいけど、やっぱり林田監督に選ばれてこそだよ……。複雑な気持ち。だけど……。
――――どういう経路で選ばれたとしても、結果が全てだ。監督にも享祐にも選んだことを後悔させないよう、頑張るだけじゃないか。
「次回は京都ロケですね。泊りがけだから楽しみですー」
東さんはいきなり一度くらい声音を上げた。嬉しさが顔にも声にも現れている。そう言えばさっき、享祐もロケのこと言ってたな。泊りがけのロケは今回初めてだ。
「そうだね……泊りがけかあ。どこに泊まるの?」
「あ、どこだろ。ADさんから連絡がまだないので。でも、新幹線は予約済みです。グリーン車ですよっ」
「えっ!? マジで。そんな贅沢なっ」
グリーン車なんて、公私ともに乗ったことないよ。
「スポンサーから出てるんです。私は指定席なのでおひとりですけど」
「そうなんだ……なんだか悪いな」
「まさかっ。もう伊織さんはスターなんですよ。帽子とグラサンをお忘れなく」
「ああ、うん」
京都にロケ。享祐も新幹線かな。一緒だと嬉しいな……。
けれど、残念ながら一緒ではなかった。享祐は朝から撮りがあるので、始発で行くとのことだった。さすがにそれに同行したいとは言えなくて……。
それでも、京都ロケではサプライズがあったんだ。
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