TAKE 31 幸せ過ぎて怖い

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TAKE 31 幸せ過ぎて怖い

 京都のロケで、突然僕らの関係は本物の『秘密の関係』になった。今までは嘘の、が冠についていたんだけど、享祐が力技で取っ払ってしまった。  ――――結局、享祐は僕の気持ちを知ってたんだよな。少なくとも好意を持ってるってことは。そうじゃなきゃ、実質初対面でキスなんかしないか。  それにしても僕は鈍いな。完全に勘違いして。 「いや、でも俺もそのことは考えてたよ。自然に感情移入出来れば、演技もうまく行くだろうって。やっぱり壁があると変にいやらしく見えるからさ」  東京に戻ってから、僕らは毎日のようにお互いの部屋を訪ねた。マンションの中なら誰かに見られることもないし、なんて言うか、会いたくてどうしようもないんだよ。 「それに、俺もしばらくは確信を持てなかった。伊織の気持ちは『憧れや尊敬』なのか、それとも……『恋愛感情』なのか」  今は享祐の部屋にいる。僕らはソファーを背もたれにして、ラグの上に座っていた。享祐が口の端を上げて、僕の肩を抱く。僕は自然と彼の肩に頭を預けた。 「いつ、確信した?」 「そうだなあ。ああ、ちょうどここで一緒に配信を見た夜だな。初回の」 「あ、うん……そうか」  興奮と安堵でテンションがおかしくなってた。あの時、僕は確かに享祐が本気で好きだと思えたんだ。 「それでも、東さんから電話があったら、おまえはすぐ俳優の顔に戻ってたんだよな。ちょっと慌てた」 「ツイッタのトレンドに入ったってあれかあ。そうだね。でもあの時は色んな感情があふれ出ちゃって大変だったんだよ」 「まあ、それは俺も同じだったな。ドラマが受け入れられたのはマジで嬉しかったし」  享祐が京都であのホテルを予約したのは、その前の林田監督の不用意な一言が原因だったらしい。 「伊織に変な誤解されたらたまらないって思ったんだよ。伊織には自信もって欲しかったし。それだけの実力も魅力もある。ちゃんと説明したくてさ。でも、勢い余って告白になってしまった」 「雰囲気が良かったからね……」 「伊織が魅惑的過ぎたんだよ。白いバスローブにやられた」 「ええ? ははっ。それは僕の方だよ。享祐は似合い過ぎなんだよ、そういうの」  声を上げて笑うと、それを防ぐように享祐が口を塞いだ。熱いキスで。  幸せ過ぎて怖いくらいだ。僕は享祐にぶら下がるようにしがみつく。腰と背中をぐっと抱かれ、溶けてしまいそうだった。
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