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TAKE 4 呼び捨て
「試しておかない?」
僕の目の前で、ずっと憧れ続けていた越前さんがウィンクをした。右側の口の端をついっと上げ、僕の顔をじっと見つめている。鼻の頭がつんと熱を持った気がする。
――――や、やばい。鼻血が出そうっ。
僕は慌てて鼻の頭を押さえる。こんな無様な格好見せたくないよ。
「原作は持ってるんだよね?」
「はい、もちろんです」
良かった。鼻血出そうなの気付かれなかったみたいだ。僕は急いで本棚に入っている『最初で最後のボーイズラブ』1、2巻を持ってきた。このシリーズはまだ継続中なんだ。
「どこまで実際にやるんだろうね。気にならない?」
めちゃくちゃ気になってる。これを実写版で忠実に映像化したら、いくら有料コンテンツと言っても放映出来ない。
なんし、あんなことやこんなことも……。あ、また鼻血が出そうに……。
「さすがにベッドシーンは……え、越前さんはどう思いますか?」
「うーんそうだな。てか、越前さんはやめろよ。享祐でいいよ。こっちの二人も呼び捨てだし」
「ええーっ! そんな、大先輩にそんなことは出来ませんっ」
「伊織」
「は、はいっ」
い、伊織って呼ばれた。越前さんから自分の名前を呼ばれることがこんなにも感動的とは思わなかった。
「こっち座って」
越前さんはソファーの自分の隣を指さす。僕はおずおずとそこに腰を下ろした。
「俺達はね、これからこんなことやあんなことをするの」
開かれた原作本を指さす。そこには二人の熱々のキスシーンが。
――相馬は壁際に駿矢を追い詰め、自分の体を盾に閉じ込めた。それでもいきがるように挑発的な視線を向けてくる。
だが、相馬にとっては、そんな抵抗すらも愛おしく思えてくる。細い顎を右手で掴むと乱暴に上を向かせた。唇を寄せ、舌で存分に駿矢の唇を味わう。
もっと抵抗するのかと思っていたが、駿矢は黙ってされるがままになっている。いつしか両腕が相馬の背中を這い出す。
熱い吐息が吐かれたのを合図に、二人は濃厚なキスへと転じ、唇をなぞっていた相馬の艶やかな舌は駿矢のそれと絡み合った――
こんな官能的なシーンはいくらも出てくる。これはまだ軽い方だ。だから、このシーンは実写化可能と言えた。
「だから、先輩後輩だの、敬語だの、取っ払わなきゃ。そうだろ?」
「そう……ですけど……」
近い。越前さんの顔がどんどん近くなってくるんだけどっ。ぼ、僕の心臓が、今まさに破裂しそうな勢いで打ち逸ってる。
「ち、近いです」
「ああ、だってそうしてるから」
僕の顎に越前さんの指が触れる。て、抵抗した方がいいのかな。でも、でもそんなことできないよーっ!
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