TAKE 48 監督からのお知らせ

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TAKE 48 監督からのお知らせ

 そう言えば(なんの脈略もないフリ)、先日マンションの前で取材? されたヤツ、ちゃっかり記事にされてた。  あの真壁って記者、ホントにしょうもない。僕が言った言葉を適当に繋げたもんだから、何言ってんだかわかんないことになってる。僕がアホみたいだ。 「大丈夫ですよー。不自然だから、捏造だろうなあってスルーされてます」  東さんは意に介さず。事務所もシカトを決め込んでいる。だから全く盛り上がらない記事にはなってるんだけど、それも含めて僕は面白くない。  そりゃ、盛り上がられても困るけど、僕だけ怪我するってのも心外だよなあ。でもエゴサはしない僕だから、東さんの『大丈夫』を信じるしかない。 「ところで今日のスタジオ入りって、なんだろう? 東さん、聞いてる?」  話題にするのもムカつくので、僕は話を変え、ハンドルを握る東さんに問いかけた。そう、こっちの方がはるかに気になってる。  今日、三週間ぶりに『最初で最後のボーイズラブ』のスタジオに入るんだ。もう全編撮り終わってるのに何事だろう? なにか撮り直しでも発生したのかな。 「さあ……何でしょうね。ドラマは明日最終回だから、撮り直しにしても急すぎますよね」 「東さんも聞いてないんだ」 「はい。林田監督から、とにかく来てくれって言われました」  最終回に向けて、ドラマの視聴者数、再生回数とも右肩上がり、僕も番宣のし甲斐があるってもんだよ。ツイッタでも何度もトレンドに上がってる。 「ふうん、悪い話じゃなきゃいいけど」  僕は膝の上に置いたリュックサックを抱きかかえた。中に入ってる水筒がぽちゃんと音を鳴らしてる。季節はもう春の訪れ。桜も満開が近い。 「享祐っ、おはようございます」  スタジオには既に享祐が来ていた。今日は現場から直のはずだ。 「お、お疲れ。またここで会えるとはね」  享祐のロケがない時は、ほぼ毎日マンションで会ってる。だけど、仕事場で会うのはクランクアップ以来だ。 「二人とも、着替えてください。こちらに用意しておりますので」  スタイリストさんに言われて大急ぎで着替える。ここで番宣? はおかしいよな。もう最終回しか残されていない。プレゼント企画でもあるのか?  そう訝しむ僕は私服と大して変わらない駿矢の衣装に着替える。享祐はいつもの海外ブランドスーツに身を包んだ。めっちゃカッコいい。 「監督、いい加減教えて下さいよ。一体何があるんですか?」  白壁の前に置かれた水色のソファー。僕らはそこに座るように指示された。  ライト、カメラ、マイク等などがセッティングされるなか、ようやく現れた林田監督に享祐が問いかける。どこか嬉しそうだし、声が弾んでる。もしかして、享祐は知ってるのか? 「あー、いや、実はお知らせがあるんだよ」  享祐の表情に相反して、監督のそれは険しい。撮影でもそんなに怒ることない監督なのに(でも無言の圧はある)、何事だ。僕は思わず息を呑んだ。 「実は……」  ――――実は、なんだよ。そこで溜めないでっ! 「実は、『最初で最後のボーイズラブ』のシーズン2が決定しましたっ!」  ――――えーっ!  渋い顔を突然破顔させ、持ち前の大声で監督が叫んだ。周りにいたスタッフさんが、クラッカーを立て続けに5個くらい打ち放す。あっけに取られて声も出ない僕の背中をバンバンと叩く奴が。 「伊織つ! やったな。シーズン2だぞっ!?」 「あ……享祐。これ、マジかな……ドッキリじゃないよね?」 「ドッキリじゃないですよっ! 伊織さんっ!」  前を見ると、東さんもクラッカーを打ち上げている。 「ああーそうなんだっ」 「しっかりしろよ、ん?」 「あ、うん。なんか、もうワケわかんないよ。ああ、でも、そうか。やったあっ!」  ようやく何事が起こったか理解した僕は、隣にいる享祐に抱きついた。
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