幕間 その12

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幕間 その12

 充実した四ヶ月だった。伊織との共演は、越前享祐にとって公私ともに大いなる刺激を与える月日となった。 『敬語、やめるならな』  クランクアップの夜。そう返した三十分後には、伊織は享祐の部屋にいた。 「必要な時が来たら、俺はいつでも公表する。そんなの何にも難しいことじゃない。俺にとっては。だから、それだけは覚えておいて欲しい」 「享祐……」  駿矢に憧れる気持ちはあるけれど、今、二人の関係を公表する必要ない。伊織はそう言った。  それに享祐は少なからず安堵していた。覚悟はあったけれど、先延ばしはしたかった。享祐にだって、真実が最上であるとは断言できなかったのだから。 「伊織……おいで」  花びらのような伊織の唇を求め、享祐は口づけをする。二人だけでいる時は、自分の気持ちに正直でいられる。  柔らかな唇を割って、自分の舌を潜り込ませた。全てを吸い尽くしたい。自分の腕のなかで身悶えする伊織を、享祐は熱情のまま貪った。  監督からは何も聞いていなかったが、多分青木は知っていたのだろう。素振りから享祐は何事かを感じていた。  最終話配信の前日、突然、スタジオに呼び出された。伊織は心配そうだが、悪いことではない。  それを教えてやりたかったけれど、折角サプライズを企んでる林田監督に申し訳ない。それに、素で驚いた方が喜びは何倍にもなるだろう。 「シーズン2が決定しました!」  予想通りだったとしても、享祐は嬉しかったし、十分に驚くことができた。    あまりに驚きすぎて声も出せないでいる伊織。なんて可愛いんだ。愛おしくて、そのままひしと抱きしめたかった。 「今夜、俺の部屋に来い、な」  打ち上げの夜、享祐は伊織に囁く。頬を赤らめるその姿がまたいじらしくて心臓がきゅっとなった。  二人の間は今でも秘密だ。誰にも本当のことを告げていない。クランクアップの夜に話をした『その時』は、まだ来ていなかった。 「享祐……あん……」  程よい酔いのまま、享祐は伊織を抱いた。ベッドの上で、伊織は自分に身を委ねる。春の夜は暖かくて、こすれ合う人肌が心地よい。  伊織のスベスベの肌を存分に可愛がると指先まで素直に反応してくれる。まるで夢心地だ。  ――――春の夢だな……。  自分の下で喘ぐ伊織の顎に触れる。そして優しくキスをした。この幸せがいつまでも続く。そんな淡い夢を見てしまう夜だった。  だが……その翌朝、享祐が思いも寄らない事件が起こった。
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