TAKE 53 お見舞い

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TAKE 53 お見舞い

「お邪魔します」  ――――えっ! 嘘っ。  僕は息を呑み、慌てて体を起こす。 「い……いてっ」 「伊織、何してる。寝てろ」 「越前さん、どうしてここに……」 「享祐、どうしたの」  三人が同時に口を開いた。それから同じように沈黙。 「あの、越前さん、お見舞いありがとうございます。でも……」 「俺のことは気にしないでください、東さん。来たくて来てんです」  僕はボタンを押して、ベッドを少し上にあげた。こうした方が、痛くない気がするし、なにより享祐の顔をしっかり見たい。 「享祐……マスコミの人、大丈夫だった?」  変装しているわけでもない。デニムジャケットに黒いパンツ。帽子とサングラスはしてたみたいだけど、どう見てもバレるだろう。 「ああ。大丈夫だから」 「あの、私、売店で珈琲買ってきます」  気を利かしたのか、東さんが病室からそそくさと出て行った。マスコミの動向が気になったのかもしれない。 「昨日より、マシになったかな。顔色が良くなってる」  享祐はベッドのとなりに丸い椅子を持って来て座った。そして僕の頬に触れる。 「うん。まだ鎮痛剤は使ってるけど、痛みも引いたし、そこのトイレまでは歩けるようになった」 「そうか……良かった」  まだ色々管付きだから看護師さんに支えられてだけど、それでも気分的に随分楽になった。  享祐は僕の頬に軽く唇を寄せてくれた。胸の奥を触れられたみたいでキュンと鳴る。 「もっと早く来たかったんだけど、警察に呼ばれて。ま、当たり前だけど」 「そうなんだ……」 「後は青木に任せてきたから、もう大丈夫と思うけどな」  犯行の動機が動機だから、享祐や青木さんが呼ばれるのは仕方ないとしても。嫌なこと言われなかっただろうか。 「ごめん。僕がドジだから。もっと気を付けてれば、こんなこと……」 「何言ってる。おまえは何も悪くないぞっ。あの有松とかいう女、マジで許さない。いや、あいつだけじゃない。青木だって……」 「享祐、そんなふうに言わなくても。幸い大したことなか……」 「大したことあるだろ? これ以上のことを俺は受け入れらないよっ」  声を荒げる享祐。こんな享祐、僕は見たことがない。思わず目を丸くして絶句してしまった。 「あ……ごめん……。つい。ずっと動揺してて……。俺、なんだよ。俺こそがもっと気を付けていれば、伊織をこんな目に合わせなかったんだ」  享祐が膝の上に握りこぶしを作り、絞り出すように吐露した。その姿に僕は胸を掴まれ、押しつぶされそうになる。 「享祐のせいじゃないよ……でも、ありがとう。その気持ちが嬉しいよ」  顔を上げた享祐の双眸には、うっすらと涙が滲んでいる。左手を少し動かすと、享祐の両手がそれを優しく包んでくれた。僕もその手にそっと指を絡ませた。
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