TAKE 6 待ってるから

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TAKE 6 待ってるから

  まだ心臓がバクバクと胸の中で大暴れしている。僕は膝に両腕を凭れさせ、自分の心臓の音を聴いている。  隣で彼がぬるくなったであろう珈琲を飲み干した。カタッと小さな音がソーサーの上で転がった。 「越前さん……」 「享祐」 「あ、えっと、享祐……さん」  じろりと睨まれたのに気付く。でも、さすがに呼び捨ては無理だよ。 「ま、いいか。追々な。で、なに?」 「あの、いつも共演者とはこういうこと、されるんですか?」 「え? ああ、ははっ。まさか」  大げさにのけぞり、笑い出した。 「プライドの高い女優陣にそんなことしたら、訴えられるよ」  それはそうだ。じゃあ、僕には訴えられないと? 訴えないけど。 「えち……享祐さんなら、喜んで受け入れちゃうんじゃないですか? モテモテだし」 「どうかなあ。あ、もしかして怒ってる?」  突然やって来て、いきなりキスしてきて、怒ってないってどうして思うんだろう。ところで僕は怒っているのか? ……全く怒ってない。もし、女優さんともそういうことしてたとしたら、腹立ったかも、ヤキモチで。 「不思議なくらい怒ってません」 「そっか、良かった。これから長丁場になるけど、よろしくな」  ぽんっと僕の背中を右手で叩く。僕は体を起こし背中を伸ばした。 「ドラマの……ためですよね?」  言っても仕方ないことを、僕は問いかける。多彩な才能を持ち、セクシー俳優としても名を成している彼だけど、同性愛のドラマは初めてだ。僕に至っては、女優さんとのキスシーンだって数えるほどしかない。 「台本貰ったら、一緒に練習しよう。俺の部屋に来てもらってもいい。連絡先交換しないとな」  僕の問いには答えず、享祐さんはスマホを取りだした。僕も慌ててカウンターに置いていたのを取って来た。  アプリを開いてフリフリする。無視されたら、それ以上聞くことが出来なくなってしまった。  どうして答えてくれないんだ。『そうに決まってるだろ』、その一言で構わないのに。それを言われて、僕はガッカリするのか安心するのか、わからないけれど。  享祐さんは、すっと立ち上がるとジャケットを軽くはたいた。脚が長いからデニム姿もクールだ。 「顔合わせは来月かな。早く始まって欲しい」 「はい。僕も」  僕も立ち上がる。背の高い享祐さんを見上げた。柔らかい視線が僕を捉え、口角が上がっているのが目に入る。胸の奥で、もう一度心臓がきゅんと鳴って跳ねた。 「じゃあ、たまに連絡して。待ってるから」  僕の頭に手を置いて、くしゃくしゃとかき混ぜた。 「さらっさらだなあ。イケメンの髪はやっぱりサラサラだよな?」  なんて言ってくるりと踵を返した。実は僕の髪は少し天パーが入ってる。なのでこのサラサラはストパーの為せる技なんだよ。ついでに少し明るい色にしてる。  享祐さんの髪は日本男児を誇るような黒髪。ショートヘアでふわりとしたナチュラルパーマな感じにまとまっている。  僕はその後ろ姿を見送った。ドキドキと胸打つ音を耳に感じる、まるで恋する少女のように。
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