5 添い寝

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 その夜も晴斗はなかなか寝付けずにいた。  いつもこういう時は酒でも飲んで気分を紛らわせるのだが、今日もそうしなければならないのか。  豆電球のぼんやりとした灯りの中、晴斗は溜息を吐いた。 「礼司、僕やっぱりお酒を飲まないと眠れないみたい」 「そうなのか?」  礼司は首を傾げる。やはり幽霊には睡眠が必要ないのか、礼司は布団の横に座り込んでおとなしくしている。  本当はアルコールに頼らずに何もかも忘れて眠りたかった。何も考えずに済むような深い闇に沈んでしまいたい。 「うん。だから、ちょっとコンビニに行ってくるね」 「なぜだ?」 「いや、お酒がないと眠れないから」 「相談に乗ると言ってるだろ。俺はお前に何もしてやれないのか?」  礼司の口調はどこか寂しげだ。  そんな風に言われると何もかもを打ち明けたくなるけれど、彼に話したところで解決できるはずもない。 「少ししたら戻るから」  晴斗が起き上がって部屋を出て行こうとした直後、彼の意識は自分の体から追い出されてしまった。 「どういうつもり?」 「これなら外には出られないだろ?」  晴斗の体を乗っ取った礼司はどこか得意げな様子だ。 「キミに相談することなんてないよ」 「お前が無理してることぐらいわかってるんだ」  礼司は強い視線で見据えてきた。その瞳の奥に宿っている感情はわからないものの、晴斗は肩を落とす。 「わかった。このままおとなしく寝るから、僕の体返して」  力なく答えると、彼は素直に晴斗の意識を戻してくれる。途端、一気に疲労感が襲ってきた。  晴斗は再び布団に横になるが、睡魔が訪れることはない。  礼司は布団の隣に座ったままこちらをじっと見下ろしてくる。晴斗は気まずそうに彼を見た。 「あのさ、せめて部屋の隅っこにいてくれないかな? そんな風に見下ろされていると落ち着いて寝られないよ」  それこそ、できれば部屋から出て行ってほしいくらいだ。  彼はほんの少しだけ考える素振りを見せた後、晴斗の寝ている布団の隣に横たわった。 「これで文句はないだろ」  晴斗はどう反応すればいいのかわからなくなる。まさかここまで堂々と隣に居座られるとは思ってなかった。 「お前が眠れるまで話し相手になってやる」  頑として譲らない彼に晴斗は苦笑する。 「修学旅行みたいだ」 「そうか?」 「ほら、学校行事で泊りがけで出かけた夜って、こんな風に誰かと話したりしたでしょ」  晴斗は昔のことを思い出す。  仲のよい友達と一緒の部屋割りになって、就寝時間になってもみんな興奮気味に喋ってばかりで全然寝ようとしなかった。遠い過去の記憶だけれど、晴斗にとっては大切な思い出だ。 「礼司はそういうことなかった?」 「たぶんなかったと思う。周りの連中は、俺を避けていたようだから」 「そうなの?」  晴斗は意外に思った。彼が周囲から無視されたり虐められたりするようには見えないし、想像もできない。 「気に入らない奴がいたらすぐに殴っていたから、そのせいだろ」  なんとも彼らしい理由である。  暴力が苦手な晴斗には想像もつかないことだが、礼司にとっては当たり前の行動だったのだろう。  近寄ってくる相手もいたそうだが、みんな彼に取り入る為に媚びていただけだという。実際に礼司は喧嘩慣れしているし、味方にしておけば安全だと思われていたのだろう。  とは言え彼は基本的に他人に興味がなかったらしく、誰も本当の意味では仲間ではなかった。 (なんというか、随分寂しい青春時代を過ごしてきたんだな)  礼司の記憶はおぼろげなようだが、全ての記憶をなくしているわけではないらしい。覚えている部分と、思い出せない部分と分かれているようだ。  例えば学校名や周囲の人物の名前までは覚えていないが、学生として授業を受けていたという記憶や、人と関わった記憶は残っている。  とは言えその覚えていること自体が、ろくな思い出ではないようだが。
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