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それからは悶々としながらも必死に仕事をこなした。
ようやくのことでバイトが終わり、帰る途中でコンビニに立ち寄って適当なお弁当や酒類を購入する。今日はアルコールの力を借りないと眠れそうになかった。
アパートに戻ると、晴斗は玄関先で重い息を吐き出した。よろよろとリビングに辿り着くと敷きっぱなしにしていた布団に突っ伏してしまう。
「晴斗」
顔を上げると、礼司がこちらを見下ろしていた。
「あいつと何があったんだ?」
黙り込んでいると、礼司は眉間に深いシワを刻んだ。
「飛び降りようとしたのはあいつが原因なのか?」
晴斗は何も答えないが、その反応だけで彼は図星だと察したようだ。
「言ったところで、キミに僕の気持ちはわからないと思う」
ささくれだった気持ちのまま晴斗は答える。
礼司は何も言わない。晴斗の言葉を聞いてどう思ったのか、その表情からは読み取れない。
(あの時彼が止めなかったら、僕は死ぬことができたのに)
家族を亡くし、恋人に裏切られ、生きる気力すら失った。未練なんてないくせに、なぜ自分はしつこく生き続けているのか。
「確かに、俺にはよく理解できないと思う」
礼司は静かに口を開いた。
「たぶん俺は、もっと生きたかったのだろうから」
晴斗は弾かれるようにして顔を上げた。
礼司はまだ高校生なのに亡くなってしまったのだ。自分が死んだ理由すら思い出せずに、何か強い未練があってこの世に留まり続けている。
彼の声は淡々としていて、そこには悲しみの色も恨みがましさ皮肉さも、八つ当たりのような感情もこもっていない。
それでも彼の前で自ら命を絶つことを考えていた自分が、ひどく後ろめたかった。
「ごめんなさい」
晴斗は消え入りそうな声で呟いた。
「どうして謝るんだ?」
礼司は本当にわからないとばかりに首を傾げる。
死にたいと願っている自分と、まだ生きていたかったであろう礼司。
こんなにも相反する二人が巡り合い、一緒にいることが、晴斗にはとても皮肉めいた運命のように思えた。
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