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1 出会い
ここ最近、死ぬことについてよく考える。
中一の頃に父が病死して以来、晴斗はずっと母と幼い妹を支えて生きてきた。
人当たりのよさと真面目な性格のおかげで友人には恵まれていたと思う。成績もよく、教師やクラスメイトからの信頼も厚かった。
高校生になってからは家計を少しでも楽にしようとバイトを始めたり、進学の為に勉強に励んだりと忙しくしていたが、それでも優しい母や可愛い妹と一緒に過ごす時間は大好きだった。
なのにその日常は三年前――晴斗が高校二年生の時に壊れた。
家族で乗っていたバスが事故に遭い、母と妹が亡くなったのだ。あの時は晴斗も一緒にいたのに、自分だけが五体満足で生き残ってしまった。
それから晴斗は叔父夫婦の家に引き取られたが、そこは酷い場所だった。
三つ年上の従兄には気まぐれで暴力を振るわれ、頑張って稼いだバイト代も生活費だと言われて叔父に全て取り上げられた。大学への進学も許してもらえず、ひたすら叔父一家の機嫌を取るだけの日々。
でもそんな生活にも、少しだけ光がさし込んだ。
晴斗はバイト先で知り合った男性と親しくなった。彼は晴斗よりも年上で、明るく快活な人だった。
最初は単なる先輩後輩の関係だったが、次第に彼の方からアプローチされるようになり、その関係は徐々に変化していった。
『俺と付き合おうよ』
彼からそう言われた時は本当に驚いた。
これまで何度か異性から告白された経験はある。だけど男性に好意を抱かれる日が来るとは思ってもみなかったのだ。
困惑したが不思議と嫌悪感はなく、むしろ嬉しいと思ったくらいだ。ほどなくして二人は交際を始め、高校を卒業してすぐに一緒に暮らし始めた。
同性と恋人になるなんて夢にも思っていなかったが、彼と幸せになりたいと考えていた。
――突然の破局は、晴斗の二十歳の誕生日に訪れた。
その日は二人でお祝いをするはずだったのに、彼は知らない女を部屋に連れ込んで行為に及んでいたのだ。
目の前で起こった出来事を理解することができず、呆然とする晴斗に男は言った。
『悪いけどさ、俺はお前みたいに同性愛者なわけじゃないんだよ』
冷たい言葉を投げかけられるのと共に、晴斗は部屋から追い出された。
自分の方から晴斗に言い寄っておきながら、飽きたら男は対象外だと一方的に告げられたのだ。
どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。
家族を亡くし、叔父夫妻の家で虐げられ、愛する人にも裏切られた。
これまで必死に生きてきたけれど、さすがにもう疲れてしまった。
それから毎日のように、彼は死ぬことを考えていた。
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