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春、桜の花が舞い散る中、俺は環の横に立っていた。
残念ながら大学は別々になっちまった。学力の差に、俺の内申の悪さは取り返しできなかった。
でも大学は山程あり、必ずしも同じ大学に行く必要はない。
「ルームシェアってコトで」
俺達は同じアパート同じ部屋で暮らす。
「そこは同棲で良くない?」
呆れ顔の環に鍵を渡しつつ俺は眉をひそめた。
実のところ環とはまだ付き合ってはいない。
いやほぼ付き合っているのだと思う。お付き合いを前提に幼馴染を続けている感じ。
「お付き合いを前提って…」
だって環を好きだけど、その好きは付き合って良いの好きかは分からないというか。
「分からない?」
すみません。もう分かってます。付き合うのは良いんだ。付き合うのは。
ハグもキスもしてるし。
「軽いヤツだけね。そろそろキスはえっちなヤツに進みたい」
うるせぇ。そこまで来たらイニシアチブが決まっちまうだろうが。
余計なことを言わないように、俺はグッと唇を噛み、ギロリと環を睨みつけた。
生意気なことに環は俺より少し身長が高くて、見上げることになるのが遺憾だ。
「昔……お前言ってたよな、相棒がイヤって」
話題を変えよう。そうしよう。
お前が昔言っていたあの言葉。相棒じゃなくて、古臭いやつ。あれ何だよ?半魚人みたいなヤツ。
「ああ、良く覚えてるな。『伴侶』だ、それ」
ハンリョ?
「一生連れ立つ者って意味だ。俺達にピッタリだろ?」
そうだな。それすげぇしっくり来るじゃん。正に俺達のことだ。
思わずブンブンと高速で頷く。すると環は意地悪そうにニヤリと笑った。
「類語はベストパートナー、もしくは配偶者だ」
はい……ぐぅ……しゃ………。
環の目が捕食者よろしく、ギラリと光る。ぐいっと腕を引かれて蹌踉めく俺を抱きとめると、ぐぅも言わせず唇を合わせ、ヌルリと口内に侵入した。
うごげがぁぁぁがぁぁぁ。
「アツ……独り言は頭の中で済ませろっていつも言ってるのに」
潤んだ視界の向こうで環が俺をじっと見つめ、ペロリと色っぽく舌なめずりをする。
「イニシアチブは俺のもんだ」
ああクソ、またやっちまった。
恨めしげに見上げれば、環は半魚人みたいに悪い顔で笑っていた。
End
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