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……というか俺また……。
「アツ……独り言は頭の中だけにしろって言ったろ?」
環が子供の頃の様に笑う。
ああ、そうだ。あの時もこんなふうに笑っていた。
「2人の世界作ってんじゃねぇ!!」
環の首元にカッターナイフが当てられる。
でも俺は心配なんかしない。だって知っているんだ。
環は俺に勉強を教えてくれた。
そして俺も環に教え続けたんだよ。
夜のあの時間は勉強だけじゃねぇんだわ。
「アツ……独り言やめろって…………。バレんだろ?」
一瞬だ。
パイプ椅子から長くしなる蹴りで男のカッターナイフを蹴り落とす。
俺は転がってきたカッターナイフを拾いつつ、ついでに手前の男に足払いを食らわせた。バランスを崩して頭から落ちる男の顔を横目で見つつ、環に襲い掛かる男を流れるように投げ飛ばした。
パイプ椅子ごと立ち上がって一回転した環は更に両隣の男にも蹴りを加えていた。カッターナイフでビニール紐を解いてやると、環は華麗に俺の後方から殴りかかる男に飛びかかる。
俺はパイプ椅子を掴むと横に払って、周りの男をふっ飛ばす。
5分後にはうめき声を漏らしながら全員地面に伏していた。
廃工場を出ると、太陽は西の空に真っ赤に燃えて沈んでいく。
夕日なんて久しぶりにちゃんと見たわ。
自販機で買ったコーラに口をつけて俺はネクタイを直す幼馴染の横顔を見つめた。
クソ程イケメンでムカつくな。
「環……お前なにしてんだよ?」
「最近絡んでくる5人ってこいつ等だろ?勉強の邪魔だから全員まとめてノシてやろうと思って」
「……」
「取り敢えず5人の連絡先調べて、女のフリして呼び出して、意気投合させて、そっから俺がアツの友達だと情報ながして」
「……おい」
「いや5人とも顔も知らない女の誘いに乗るとは思わなかったわ。しかも全員来なかった女のことスッカリ忘れて意気投合してくれて……。馬鹿で助かったよ」
「……環」
俺の低い声に流石の環もチラリと俺を見る。
「俺は怒ってるんだぞ」アピールでしっかりと目を見つめると、環は楽しそうに笑った。
「久々に運動して楽しかった。アツには何にも言わなくて悪かったよ。でもさ……」
アツの告白嬉しかった。
環は綺麗な顔をクシャッと崩して、男前に笑ってみせた。
赤い太陽の光の中、眩しい笑顔が本当に格好良いからイヤになる。
ああクソ。
知りたくない。
知っちゃいけない。
でも分かっちまった。
これからどうなるかも、コイビトとかレンアイとか全部分からねぇけど、俺は一生環と一緒に居たいと思っちまった。
「……アツ……思考ダダ漏れ」
環は嬉しそうに俺の唇をそっと塞いだ。
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