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雄介は踊るように騙される。
雄介は僕が嘘つきだという。
否定はしない。
自分を女だと言ったり、
体操着を忘れたと言って借りたり、
先生が呼んでいると言って呼び出したり、
猫が木から降りられなくて鳴いていると嘘をついた。
そしてことごとく雄介は騙された。
嘘を付くにはコツがある。
それは「『本当』を織り交ぜること」。
体操着を借りた日、学校の授業に必要はなかった。
でも僕には必要だったんだ。僕の匂いを覚えて欲しいから。
柔軟剤をいつもの倍量入れて洗濯をした体操着は甘ったるい薫りがして、僕は思わず笑いを溢した。
図書室に雄介を呼び出した。
先生じゃなくて「僕」が呼び出しただけ。ほんのちょっとの差じゃないか。
お詫びに奢ると言えば、ブツブツ文句を言いながらちゃんとついてきてくれた。
手についたハンバーガーのケチャップを舐め取る雄介を見ながら、僕は思わず笑いを溢した。
木に登って降りることが出来なくなった猫だって、別に全部嘘じゃない。
「木の上」じゃなくて「木の下」で、「猫」じゃなくて「僕」が、ニャアニャア「鳴いて」いただけだ。
雄介に会いたくて「泣いて」いたんだよ。
息を切らせて現れた雄介の姿を見て、僕は思わず笑いを溢した。
いつだって雄介は僕の嘘に踊るように騙される。
演劇部のヒロインだって嘘だ。
でも「演劇部」ってところだけだ。
僕は雄介のヒロインになりたい。
初めて会ったとき、僕は雄介に「女」だと嘘をついた。あの瞬間から僕はずっと雄介のヒロインに立候補しているんだよ。
いつだって僕の嘘には『本当』の願望が混ざっている。
最後に一つ。騙され方にもコツはある。
キツく抱きしめてくれた雄介は僕に「この嘘つきが」といったけど、ちゃんと騙される方にも理由がある。
「騙されたいという願望」
雄介だって心の何処かで僕に騙されたかったんだよ。じゃなきゃ、こんな馬鹿馬鹿しい嘘にお前が引っかかる訳がない。
だからさ。
「雄介は踊るように騙されるから、大好きだよ」
僕を抱く腕が少し震えて固まったのが分かる。暫くして「どうでもいいか」とどこか諦めた様な言葉が耳に落ちてきたと思うと、雄介は僕の背中をそっと撫でた。
放課後誰も居ない音楽室、外の桜の花は全て散り青々とした葉を繁らせている。
「奏は歌うみたいに嘘を吐くよな。でも結局俺もお前が好きだわ」
そう言った雄介の胸の中で、僕は甘酸っぱい息をつく。
歌うように嘘を吐き、踊るように騙されて、縺れるように堕ちていく。
そう言う恋で僕等は良いんだ。
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