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秋島環は俺の幼馴染である。
家が隣で両親も仲が良く、兄弟の様に育てられた。成績優秀で今は県下一番の高校に通っている。
「アツ、ボンヤリしてないで掃除しろよ」
明るい髪を揺らしてクラスメイトの高橋がコツンと箒で後ろ頭を叩く。
「あ、悪ぃ」
俺は慌てて箒を受け取ると、掃き掃除を始めた。
いかん。ボンヤリしてる場合じゃねぇ。周りからはクスクスと小さな笑い声が広がった。
が、ぐるっと周りを見渡した瞬間全員一斉に目をそらす。
ちぇっ。酷いよなぁ。
俺は元地元を牛耳ったヤンキー夫婦(現在は二人共美容師)の間に生まれ、鉄拳制裁上等の環境の中、腕っぷしだけはこの辺で一番になった。(ちなみに成績は上の下。高校は環には及ばずとも県下3位で、しかも校内上位である。意外なこの成績については後述する)
ちなみに俺はグレてない。ただなぜか俺に喧嘩を挑むやつが次々に現れ、そのたびにノシただけだ。
それだけでこのように学校ではヤンキー認定されてしまった。
先生には「お前成績は良いのになぁ……内申がなぁ……」と零される始末だ。
俺は土日仕事の親の代わりに町内会の草むしりにだって参加してるし、近所のおばちゃん達には今だにガキ大将と変わらぬ扱いを受けているのに。
閑話休題。
ともかくこんなベクトルが反対方向向いている俺達は今も友達だ。
いや友達だったはずだ。
高校は変わってしまったが、今もしょっちゅう環は俺の家に入浸り、自分の勉強をしつつ俺の勉強も見てくれる。
「アツの勉強は復習になっていいからな」
そう、無表情で眼鏡を拭いていたアイツが俺に懸想してるだなんて……。
うおぁいえうえあぉあぅえええ。
「変なうめき声出してんじゃねぇ。だいたい懸想……?なんだそりゃ」
「想いを寄せているってことだよ……って」
「平安かよ。てか、全部口にでてんぞ」
高橋は呆れたように俺を見て、机の拭き掃除を再開し始めた。
まじかっ。
周りをキョロキョロするが、声は小さかったらしい。高橋以外は気づいてなかったみたいだ。
良かったぁ。
まさか幼馴染に突然告白されて戸惑ってるだなんて知られたくない。
「……おい」
しかも幼馴染が男だなんて知れたら恐ろしいことに。
「ぅおいっ」
まじでこれからどんな顔して環会えばいいんだよ。
ガツン!
突然眼の前に星が散る。斜め上の視界では英和辞典、そして殺人鬼を思わせる鋭い視線がそこにあった。
「思考垂れ流してんじゃねぇ」
ああん?とヤクザのお兄さん並みに睨みをきかせた高橋が見下ろす。
すみません……そしてストッパー高橋よ本当にありがとうございます。
「……たくよぉ。独り言は頭ん中で済ませろよ」
この口の汚いお兄さん、高橋くんも実は成績優秀です。皆覚えておこうね。頭の側面を刈り上げ、明るい髪を天辺から長めに横に流したスタイルで、目つきは非常に悪いけど、彼は将来会計士を目指しているんだよ。ちなみに髪色は生来のものです。(本人談)
「誰に向かって言ってんだよ」
頭が痛すぎるので虚空に語りかけてます。
「頭の良いオトモダチの高橋くんは、彼女いるよ。可愛いよ。そして密かにアツが男に告られていることに驚いているよ」
お前も虚空に語るんじゃねぇ。
てか、そうだよな。男に告られるってどうすれば良いのか全くわからねぇ。
「いやいやいや。即決じゃねぇのに驚いたんだわ。お前、付き合うの悩んでるんだろ?その……男の幼馴染と」
まあそうだ。
「付き合わない、一択じゃねぇんだな?」
……んん?
「もうお前性別の問題は除外してんじゃん。付き合うか、付き合わないかだけ考えればいいだろ?」
「そっちのが効率的だ」と高橋は付け加えると「いっぱい悩め。一生懸命な」と言ってニヤリと笑った。
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