ダダ漏れヤンキーの半魚人

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なるほどである。 どうして俺の周りにはこんなに頭のいいやつが沢山いるんだろう。相談したら的確な回答を得てしまった。 「頭の良い高橋くんには感謝だな。俺が会社を立ち上げた際には必ず声をかけよう」 環はシャーペンをくるりと回して、ノートに計算式をツラツラと書く。証明問題らしい。計算式は長々と続いていく。 「よろしく頼むわ」 俺はコーヒーをテーブルに並べると、向いに座って問題集を広げた。 夕飯が終わるころ、環は大抵いつもこうやって俺の部屋を訪問し、向かい合わせて問題を解く。 中学から続くこのサイクルは既に生活の一部となっており、小学校では底辺も底辺だった俺の脳みそはアップデートを繰り返していた。 「アツ、ここの和訳間違ってる」 「え、まじ?」 俺は英文を読み直しながら、告白したにもかかわらず今日も平然と俺の部屋に訪れた環の顔を盗み見た。 切れ長の目を縁取る長い睫毛、すうっと通った鼻筋、白い肌、薄いくちびる。眼鏡ではあるが、環は綺麗な顔をしている。女子にもそこそこ人気があった。 なんで俺なんだろ? いや俺を好きだとして、なんで今更告白なんかしてきたんだ? 「集中。『今は』勉強の時間だ」 環は俺の額に手刀をぶち込む。いってぇ。まじで環の手刀はいてぇんだわ。はえぇし。こう……柳みたいにしなるっつうか……。 「脱線。拳の話は後にしろ。というかお前のその解な。ぶっちゃけ俺は焦ってる」 焦ってる?環が? 「今までアツの勉強を見てきた。成果は出たが、高校は別になった。そして目を離した瞬間アツは彼女を作った」 彼女って鮎奈のことか? 付き合って1週間で蛙化したじゃん。 あと流石に環と頭のレベルが違いすぎる。同じ学校なんて無理に決まってんじゃん。 「決まってない。でも限界はある。今の高校だって首席なら大学は同じ所に行ける可能性もあった。だけどアツはしょっちゅう喧嘩ふっかけられるだろ?」 まあな。最近やたら絡んでくるやつが5人くらいいるんだよな。ランダムで現れやがって。すげぇうざいんだわ。 「俺が話してる。聞け」 「わり」 ゴホンと仰々しく咳払いをして環は続けた。 「身を守るためだから、俺は止められない。でもお前の内申は悪くなる」 ……ていうか俺もしかして……。 「俺は県外の大学に行く。俺達はきっと離れ離れになる。だから遠距離覚悟で告白した」 頭を動かさず、視線だけ俺の瞳を捉えた環はそっとシャーペンを持たない手で俺の手をなぞった。 「アツ……独り言は頭の中だけにしろよ」 またやってしまっていたらしい。 項垂れる俺をみて、環は目を細めた。直毛の髪が流れて嫌に妖艶だ。 焦って本気になった幼馴染はクソほど格好良く見える。 「ムカツク」 俺は赤く熱く熱を持った両耳を掌で隠すしかなかった。
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