365人が本棚に入れています
本棚に追加
/454ページ
私は自分の名前が大好きだった。
お母さんが付けてくれたこの名前が好き。
“明音”
「なんで、あかねはあかねっていう名前なの?」
私は、幼少の頃にお母さんに訊いた。
「明音が産まれてこの家にやって来て。この家が明るくなったから。
あなたはこの家の明るい音色なのよ」
お母さんはそう言うと、私の頭を優しく撫でた。
私は、お母さんに頭を撫でて貰うのが大好きだった。
お母さんの手は、凄く綺麗でほんのりと温かくて…。
何度も何度も…
私の頭を撫でてくれた。
最後の時も…。
お母さんは癌だった。
子宮癌。
家族で私だけがずっとそれを知らなかった。
普通は本人だけは…とかだよね?
お父さんもお兄ちゃんも、そしてお母さん本人も、私にはその事を教えてくれなかった。
だけど、隠しても分かるよ 。
皆、嘘つくの下手だもん。
それに、看護師さんとお母さんが話してるのが聞こえて来た事も有った。
病室の前で私は泣いた…。
泣いても何も変わらないのに。
日に日にお母さんの姿は痩せ細り、変貌していった。
本当にこれがお母さんなの?
私は何度も思った。
「明音は、私達の大切な家族だから…。
お父さんもお兄ちゃんも皆明音が大好きだから…。
それを、忘れないで」
お母さんは私の頭を撫でて。
その言葉を遺して亡くなった。
実際は、それから何日も意識が戻らないまま、静かに事切れた。
最初のコメントを投稿しよう!