プロローグ1(明音)

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私は自分の名前が大好きだった。 お母さんが付けてくれたこの名前が好き。 “明音” 「なんで、あかねはあかねっていう名前なの?」 私は、幼少の頃にお母さんに訊いた。 「明音が産まれてこの家にやって来て。この家が明るくなったから。 あなたはこの家の明るい音色なのよ」 お母さんはそう言うと、私の頭を優しく撫でた。 私は、お母さんに頭を撫でて貰うのが大好きだった。 お母さんの手は、凄く綺麗でほんのりと温かくて…。 何度も何度も… 私の頭を撫でてくれた。 最後の時も…。 お母さんは癌だった。 子宮癌。 家族で私だけがずっとそれを知らなかった。 普通は本人だけは…とかだよね? お父さんもお兄ちゃんも、そしてお母さん本人も、私にはその事を教えてくれなかった。 だけど、隠しても分かるよ 。 皆、嘘つくの下手だもん。 それに、看護師さんとお母さんが話してるのが聞こえて来た事も有った。 病室の前で私は泣いた…。 泣いても何も変わらないのに。 日に日にお母さんの姿は痩せ細り、変貌していった。 本当にこれがお母さんなの? 私は何度も思った。 「明音は、私達の大切な家族だから…。 お父さんもお兄ちゃんも皆明音が大好きだから…。 それを、忘れないで」 お母さんは私の頭を撫でて。 その言葉を遺して亡くなった。 実際は、それから何日も意識が戻らないまま、静かに事切れた。
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