プロローグ1(明音)

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そしてあの女がやって来た。 私はあの女が憎い。 私達家族の中に入り込んで来た、あの女が大嫌い。 あの女は、お母さんが大事にしていた食器や調理器具を使い、 そして、お母さんの席に座る。 ダイニングテーブルもリビングのテーブルでも…。 今までお母さんが居た場所に、あの女が居る。 突然だった。 「再婚を考えている女性が居るんだ」 お父さんのその一言は、まるで青天の霹靂で。 いつもの夕食の時に、唐突に言われた。 「何?冗談でしょ?」 私はそう笑い飛ばしていた。 お父さんは、本当にお母さんの事を愛していた。 子供の私から見て、恥ずかしいくらいに。 月に一度は、私達子供の事なんか放ったらかして、外で二人で夫婦水入らず食事なんかして。 だから、嘘だと思った。 私だけじゃない。 「父さん何の冗談?」 お兄ちゃんも私と同じように、笑っている。 そして、興味を無くしたように再び食事を始めた。 お母さんが亡くなって、 まだ一年しか経っていなかったのに。 私達家族に、あの女が入り込んで来た。 「明音ちゃん、ちゃんと朝食べた方がいいよ?」 あの女は、毎朝そう言う。 私はあの女の顔を見る事も無く、玄関に向う。 「明音はお母さんっ子だから…。 あまり気にしない方がいいですよ」 お兄ちゃんが、あの女にそう言っているのが私の耳に届く。 その口調は、どこか私を非難する響きが有った。 “明音は子供だから” そう言われている。 「だけど…」 そんな二人の会話が私の背に届くけど、 振り向いて何かを言い返す気にもならない。 あの女と喧嘩をする気にもなれない。 あの女と向かい合う事をひたすら避けていた。
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