プロローグ1(明音)

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最近、お父さんとまともに話す事が無くなった。 私の口から出て来る言葉は、決まってあの女の悪口だからか。 私が避けているのだろうか?お父さんが私を避けているんだろうか? あまり、話さなくなった。 お父さんはすごく子煩悩な人だった。 私やお兄ちゃんがまだ幼かった時。 どれだけ仕事が忙しくても、私達の誕生日の日はなるべく早く仕事を切り上げて帰って来てくれた。 私の5歳の誕生日の時なんか、大きいクマのぬいぐるみを抱えて帰って来たっけ。 勿論、私はそのクマの大きさに驚き、大喜びした。 そして、お父さんの方がそんな私よりも喜んでいたと思う。 私の喜んでいる顔を見て、満足気に頬を緩ませていた。 娘に弱い、そんな典型的な父親だった。 お兄ちゃんはよくお父さんに怒られていた 。 だけど、私はお父さんには怒られた事がなかった。 その事について、よくお兄ちゃんが愚痴を漏らしていたっけ。 皆に分かるくらい、お父さんは私に対しては凄く甘かったと思う。 だけど、私の事を怒らないんじゃなくて、怒れないんじゃないか?と思う。 そう気付いた時、凄く悲しかった。 お父さんは刑事だった。 K県警察本部の捜査一課に所属している。 去年の暮れに警部に昇進した。 友達にはよく刑事ってだけで、カッコイイとか言われて羨ましがられるけど。 家に居てる時のお父さんは至って普通だもん。 お父さんはお父さんだから。 たまに、お父さんの職場の人達が家にやって来る事が有った。 彼らと話すお父さんは、いつもとは違う顔をしていた。 そんなお父さんを見て、子供ながらに“私のお父さんはカッコイイんだ”なんて思った事も有った。
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