応えられない気持ち

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帰りの道路、少し車が渋滞していた。 まだ家に帰りたくない。 私はそう思っていたから、その渋滞がちょっと嬉しかった。 「買い物して帰るか?」 お兄ちゃんはハンドルを握り、人差し指でコンコンとハンドルを叩いていた。 渋滞で少し苛立っているんだろうな。 「うん。ついでだしスーパー寄って欲しい」 「んじゃ、近所でいいか?」 「うん」 20分くらい過ぎた頃には、 道路も先程とは打って変わってスムーズに車が流れている。 小型トラックの横転事故が有り、その後処理に手間が掛かったのが渋滞の原因だったみたいだ。 特に車内では、会話は無かった。 私は窓の移り変わる景色を見ていた。 そんな時、私の鞄の中からスマホの着信音が聞こえた。 私は鞄からスマホを取り出し、電話をして来た相手を確認するとそのまま鞄に戻した。 「出ないの?」 お兄ちゃんは前方から目線を逸らす事なく、訊いて来る。 「後でかけ直すからいいの」 「出ないなら、先に音切っとけよ」 そう言ったお兄ちゃんの口調は、怒っていて。 電話の相手が、誰か分かっているのだろう。 私は何も言い返す事は無く、窓の外に目をやった。 暫くしたら、スマホの着信音も消えた。 私は、鞄に手を入れて、音を消すよりも手っ取り早くスマホの電源を切った。 「次掛けた時に圏外だったら、佐山のやつ、不思議がるんじゃないのか?」 「また掛かってきたら困るし」 別に困るような事では無いはずなのに。 今、浮気しているわけでもなく、ただ、兄妹として、二人で出掛けているだけだし。 だけど、お兄ちゃんの前で佐山さんからの電話に出たく無かった。
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