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お兄ちゃんは荒く、ハンドルを右に切った 。
その細い道の先には、ラブホテルが何軒か建ち連ねている。
「冗談だよね?」
私はお兄ちゃんの顔を覗き込んだが、
お兄ちゃんは何も答えてくれない。
私達の乗った車は、その建物の一つの中に吸い込まれるように入っていった。
私は混乱したまま、お兄ちゃんを見ていた。
車を止め、お兄ちゃんはシートベルトを外し、
私の顔に視線を向けて来る。
私はただ、お兄ちゃんの顔を見返していた。
「―――家に帰ろうよ」
私はやっとの思いで口にしていた。
嫌だとか、そういうのとは違う。
今まで守っていた物を失いそうで怖かった。
だけど、お兄ちゃんにはその言葉は届か無かったのだろう。
お兄ちゃんは私の顔を覆うように両手で触れ、
そして、自分の唇を私の唇に重ねてきた。
私は、それを受け入れたわけでは無い。
だけど、何も抵抗出来ずにいた。
お兄ちゃんの唇は、私よりも温かくて、
この人が好きだから、唇だけじゃなく胸の奥迄温もりが広がる。
「…ごめん」
お兄ちゃんは唇を離すと、私から離れて行く。
「―――また、お兄ちゃんの冗談なんでしょ?」
今までの関係を壊したくなくて、そう口にするけど。
「さすがに2回目は冗談じゃ通らないよな」
お兄ちゃんは、私とは違い、その関係を壊す。
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