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「家に着いたらまた電話する」
佐山さんはそう言って、帰って行った。
私は家に入り、そのまま階段を上がった。
上がり終えると私は視線を先に向けた。
私の足が、止まる。
廊下にお兄ちゃんが立っていたから。
ちょうど風呂に向かう所みたい。
お兄ちゃんは黙ったまま私を見ているけど、
その目が怖くて、私はすぐ視線を逸らして俯いた。
そのままお兄ちゃんの横を通り過ぎようとした時、
腕を強く掴まれた。
私はそれに驚いて、お兄ちゃんの顔に目を向けた。
お兄ちゃんは少し悲しい表情を浮かべていたけど、
すぐに口の端を上げて笑った。
「俺が怖いか?」
私は突然の問い掛けに、驚いて答えられずにいた。
「安心しろよ。
襲ったりしないから…。少なくとも今日は」
お兄ちゃんは私の腕から手を離し、
そして、私に背中を向けて階段を下りて行った。
私は自分の部屋に戻って、呆然としていた。
ただテレビをずっと眺めていた。
お兄ちゃんと私は、兄妹としている事はもう無理なのだろうか…。
もうこの家は、家族じゃない。
そう思っていても、まだ私はどこかでしがみついていたかった。
家族じゃない。
そう思っているのに。
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