エピローグⅣ

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エピローグⅣ

 パーティーは大盛況かつ大成功だった。十歳年下の高校生との結婚。婚約中から双方の家の了解のもと同居生活を送っていたこともパーティー中に明らかにした。職場の部下から陰でロリコン呼ばわりされるような事態を恐れたが、そんなことはまったくなかった。  それは利歩がとても十八歳になったばかりとは思えないほど、パーティー中ずっと堂々と振る舞ってくれたからだ。彼女の所作はエレガントで、かつ一片の隙もなかった。  パーティーから数日後、部下の女性にこんなことを言われた。  「婚約者の女子高生とは彼女が中学生のときから同棲していたと聞いて、真面目な顔して実は変態だったのかと課長を内心軽蔑しました。でもパーティーでの若奥様の振る舞いをずっと拝見していて、あまりに大人でびっくりしました。自分が十八歳だった頃と比べて、自分が情けなくなりました」  同じようなことは男性の同僚たちからもさんざん言われたし、なんと言っても決しておせじなど言わない養父の守さんが、  「やはり私の見る目に狂いはなかった。利歩さんは最高の嫁になるだろう」  と太鼓判を押してくれたことは利歩自身にとっても大きな自信になったはずだ。  利歩はパーティー最後のスピーチを、こう締めくくった。  「愛という言葉に逃げたくありません。怠け者には愛を求める資格などないと考えます。私は社会人経験もない若輩者ですが、精一杯家庭を、いえ主人の、そして家族の人生を支えるために、これからも努力を惜しまないと誓います」  出席者全員から惜しみない拍手が送られた。スピーチする彼女の隣に立つ僕も拍手した。  隣に立つ十歳年上のバツイチコブ付き男などよりずっと大人びて見られたことだろう。  それでいい。外では完璧な大人として振舞うんだと利歩には常々言い聞かせている。学校では全校生徒の信頼厚い生徒会長。家庭内でも僕や僕の家族をよく立て、尽くしてくれる。  それは僕にとって都合がいいからだ。男のプライド的な話ではない。僕の性癖――ペドフィリアを満足させるために都合がよかった。  利歩とは彼女が十三歳になったその日に両家勢揃いの中結納を済ませ、正式に婚約し、そのまま彼女を東京の新居に連れ帰った。  さっそくその夜、利歩が九歳のとき以来数年ぶりに彼女とセックスした。性交同意年齢に達し今や彼女の両親の同意もある。以前のように隠れてこそこそではなく、何も恐れず堂々と彼女の瑞々しい肉体を堪能できることになったわけだ。  避妊具を利用した上で夜通し彼女と愛し合った。  「歩夢さん、この日が来るのをずっと待っていました……」  と彼女は放心状態でつぶやいた。僕もそう思っていたはずなのに、どれだけ射精しても不完全燃焼のまま、僕の心が満たされることはなかった。  その理由はそのときは分からなかった。朝、疲れて眠り続ける彼女を起こさず、寝室を出てシャワーを浴びて戻ると、彼女が土下座していた。  「どうしたの? 起きれなかったことなら責めるつもりはないよ」  「いえ、粗相をしてしまいました……」  「粗相?」  「おねしょを……」  ベッドシーツを確認すると確かに濡れて染みができている。利歩にシャワーを浴びさせ、そのあいだに汚れた寝具を全部洗濯機に入れておいた。部屋に戻ると利歩の方が着替えてもう待っていた。  「おねしょは前から?」  「違うんです! ものごころついた頃からおねしょなんてした記憶ないです!」  じゃあたまたまか。よほど緊張していたんだろうと思ったら、翌日もおねしょは止まらなかった。利歩はまた土下座した。どうやら本気で婚約破棄を恐れていたらしい。そんなことはしないと安心させた。  ただおねしょする理由が分からず、心療内科に利歩を連れて行った。保護者の代理だと言って僕も診察の場に同行した。  幼児退行の一種、つまり赤ちゃん返りだというのが医師の見解。強いストレスにさらされ続けて、心が限界に達してるのだと。おねしょしたことは責めず、またなるべくストレスを感じないで済む生活を送らせるべきだと医師はアドバイスした。  利歩は八歳のときから知ってるが、ずいぶんしっかりした子だなとずっと思っていた。隠れて交際してる頃、何度も叱り飛ばされた。あの緑だって利歩の前ではタジタジだった。  それが利歩の本質なのだと信じていた。僕は馬鹿だ。彼女がどれだけ精神的に無理を重ねていたか全然気づかなかった。  しかし僕は医師のアドバイスに従わなかった。むしろ医師のアドバイスの真逆の対応を取った。セックスの最中必ずおねしょしたことを責めて、何度も謝らせた。外では今まで以上に完璧に振舞えと要求した。学校では勉強で一番を取ることはもちろん、生徒会活動などにも積極的に参加し、将来の社長夫人として恥ずかしくない言動に心がけよ。その代わり、僕と二人きりのとき、僕にいくら甘えてもいい。僕はけして怒らないから、と。  利歩は僕の言いつけをよく守った。外では徹底的に完璧さを追求し、その代わり夜、二人きりになるとまるで幼児が父親に甘えるようにべったりと僕に甘えた。幼児退行した彼女の相手をするのは楽しいが、僕と二人きりのとき、必ず彼女が幼児退行するわけじゃない。大きな失敗をしたとき、限界近くまで頑張ったとき、そしてセックスしているとき。幼児退行のスイッチが入るのはそういう場合だけだ。  正直、僕に敬語で話しかけてくる大人ぶった利歩は好きじゃないが、幼児に返った彼女とのセックスは魅力的だった。利歩はセックス中、心が幼児の頃に戻り、僕を〈先生〉と呼んだ。僕もそのときだけは彼女を〈利歩ちゃん〉と呼んだ。利歩は幼児退行してるときはいつもの敬語も出なくなる。自分のことも〈利歩〉と呼ぶ。  「利歩ね、先生大好き!」  そう言って僕に抱きついてくる。  利歩の幼児退行はますます悪化し、寝てなくても僕の前でおもらしするようになった。利歩は僕と二人でいるときだけ、おむつをつけるようになった。それでもおむつをはずしたセックス中におもらしすることもあった。  幼児退行とおねしょは実は彼女が高校生になった今も改善されていない。外では大人以上に大人なのに、ベッドルームではまるで五歳の幼児と変わらない。小児性愛者としての僕の欲求は完全に満たされている。  「先生、またテストで一番になったよ!」  「先生、また生徒会長に信任されたよ!」  けなげに僕の承認を求め続ける、幼児のような彼女を犯すこと以上の快楽などこの世に存在しない。美和と心美は利歩を完璧な母親として信頼している。でも実は僕の前ではただの大きな赤ん坊。このギャップがたまらない。  パーティー会場となったホテルのスイートルームが宿泊予約されていた。パーティー終了後、利歩を伴って部屋に入った。部屋に入るなり利歩が飛びついてきた。  「利歩、今日すごく頑張ったよ! 先生褒めて!」  「褒めてほしいなら分かってるね」  「はい、先生」  利歩は慣れた様子で衣服を全部脱ぎ捨てた。そしてベッドの上に座るなり思いきり足を開いて、十八歳になったばかりの彼女のすべてを僕の目の前にさらけ出した。僕に言われなくても自分から自慰を始める。いちいちマジックで〈歩夢専用〉などと書かなくても、利歩の心も体もすべて僕のものだ。  「いい子だ」  「えへへ」  褒められて笑顔になった利歩の上に覆いかぶさる。彼女はすでに十分に濡れていた。僕も欲情していたから、下半身だけ脱いでさっさと挿入する。利歩の生理周期は完全に把握している。今日は安全日だから避妊具はつけない。  「先生、気持ちいい!」  利歩のたわわな胸の膨らみが激しく揺れる。無防備な表情を晒しながら、熱中症の犬みたいにハッハッと喘いでいる。ほんの一時間前にはパーティー出席者全員から惜しみない拍手を送られた素晴らしいスピーチをしていたはずなのに。それにしても、理性と非理性の境界線を挟んで行ったり来たりする彼女を見るのは興奮する。  「おっおっおっおっおっおっ……」  「はっはっはっはっはっはっ……」  どちらかが合わせてるわけでもないのに、僕らの吐息のタイミングはぴったりと一致していた。二人の動きが速まるにつれて、吐息のスピードも加速していく。  利歩は僕と同居を始めてから今までに、五人の男子生徒から交際を申し込まれたそうだ。もちろん利歩は好きな人がいるからとその場で即座に断った。その五人が利歩の今の痴態を見たなら間違いなく泣き出すだろう。  「利歩、先生とのセックス大好きっ」  「おむつも取れないくせに淫乱だな」  「十八にもなっておむつも取れないダメな利歩をお嫁さんにしてくれて、先生ありがとう。利歩、先生になら何をされてもいい」  「何をされてもいい? それだけ?」  「何をされてもいいし、なんでもするから、先生、利歩が今みたいにダメな子のままでもお願いだから捨てないで!」  「捨てたりするもんか。利歩ちゃんは僕の前ではずっと今のままでいいんだ」  「うれしい! 先生、愛してる! ああ、イクッ!」  利歩は安心したように快感に身を任せ、すぐに今夜最初の絶頂に達した。  二人きりの夜のパーティーはまだ始まったばかりだ。  【完】
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