プロローグ

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プロローグ

 近くだって見えてないのに、遠くを見ようとしてよく見えないのは当たり前だ。意味ない世界を生きるためには、無理矢理にでも人生に意味を与えなければならない。そんなことは子どものときから分かっていたが、来年には二十歳になるのにいまだにそれができたことがない。  僕は大学生で同い年の彼女もいる。その二つの事実だけで僕をうらやんだり腹を立てる同年代の男も多いだろう。彼女を作るのをあきらめて自分一人の世界に浸っている男は四十代、五十代以上の未婚男ばかりでなく、十代にも二十代にも大勢いる。恋人を作るための努力が足りないと一方的に彼らを非難するのは的外れだ。彼らの中の多くの者はどういうふうに努力していいか誰にも教わらず知らないために、間違った努力をして相手を傷つけ、また傷つけられ、それでさらに恋愛に臆病になってしまっただけだ。偉そうに書いてしまった。僕は全然偉くない。それどころか僕はまだ誰かに恋したことさえ実はなかった。僕に彼女がいるのは彼女の方から声をかけてくれたからだ。僕はなんの努力もしていない。いや僕だってどういうふうに努力していいか分からない男の一人だ。  僕は今、彼女がいると書いた。でもそれさえも実は疑わしい。彼女が彼女であることは間違いなさそうだが、だからといって彼女を恋人と呼んではいけない気がする。だってさっき書いたように僕は彼女に恋してもいなければ、愛してもいないのだから。もちろん万一そんなことを口に出したら彼女の信じていた世界をひっくり返すことになり、手がつけられないほど大泣きされ大暴れされてしまうことになるだろうから、僕がそう思っていることは永久に胸の奥に隠していることに決めている。  なんだかよく分からない存在である僕だが、その程度の分別や思いやりは持っている。彼女が知ればなんの救いにもならない程度の言い訳にすぎないわけであるが――
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