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148.グレード
「寄っていってもいい?」
「うん。今誰もいないの」
魔法学科の院生室に、ケイは彼女に続いて入る。たくさん並んだMPモニターの電源はすべて落とされていて、作業をしている院生はいない。
「ケイ、これ頼まれていた課題。書き直しておいたよ」
「――サンキュ」
彼女が鞄から差し出した資料を受け取りながら、ケイは僅かな笑みを浮かべる。それだけで、この眼鏡の女は頬を赤らめて、顔を俯けてしまうか、目を潤ませるのだ。
(でも。もったいないから、これ以上はないけどね)
ケイは自分の笑みを十段階まで設定して使い分けていた。
グレード一の笑みは口元だけを緩ませるもの。知らない人にドアを開けてもらったり、席を譲ってもらった時。グレード五は、かなり特別な笑みだ。顔全体で笑いかけてあげるもの、高価な贈り物をされた時や、先生に成績を優遇して貰った時に浮かべる。グレード八の笑みだと、目まで合わせるものだけど、これはなかなか見せてあげない。
だって、誰にでも笑ってあげてたら、ありがたみが薄れちゃう。状況によって使い分けないと、価値がなくなる。
あの女――ケイの担当の教員は、最初のうちからグレード三の笑みを見せていたのに、全然反応を見せなかった。
だから今日、特別に二人きりで笑みを見せてやったのに。
ケイと二人きりになりたがる教員は山程いるのに。
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