158.ハイヒールの罠

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158.ハイヒールの罠

「さすが、先生ですねえ」  ヤンが爽やかに褒める。このセリフ、広めないでね。  やばい失言だった。教授に伝わったら、更に授業を押し付けられるじゃない。 「ところで、それは破棄するのか」  マーレンはリディアが手にしていた箱に目を向ける。彼からのハイヒールの箱だ。素っ気無く尊大で、別にどうでもいいという雰囲気だけど。 「困っているなら捨てろ」  リディアは、ちょうどこの場にマーレンが居合わせたことに戸惑ったが、当初の予定通り箱をゴミ箱の中に捨てた。  振り向くとマーレンの微妙な顔。    ちょっと傷つけた、かな。胸にチクリと痛みが飛来する。 「物を捨てるとか、出来るわけないでしょ」  訂正を入れるけれど、複雑な感情があるからリデイアも素直になれない。  ただ足をちらりと見下ろす。  ――捨てたのは空き箱、履いているのは彼から貰ったハイヒールだ。  マーレンの顔色が変わる、わかったのかな。  自分の上げたカラーを覚えていないのは、ヤンが手配したからかな? 色違いをプレゼントするところが、気が利きすぎているというか。 「ありがとうね。でも、――もうしないでね」  マーレンを見上げて告げて、横をすり抜ける。 「――殿下、顔、顔をお引き締めください」  背を向ける前のマーレンは口を引き結んで、何かむず痒そうな堪えた顔をしていたが、いきなり真顔に戻る。 「お前――」  何かを言いかけて、マーレンがリディアの肩に手を伸ばした時だった。  叫び声が聞こえて、リディアは即座に走り出した。  が、足が痛んで、一歩目で転びかける。一瞬身体が傾いだが、意志の力で堪えて、早足ぐらいの速度に落とす。  ところで、このハイヒールを履くと、どうして走る羽目になるの?
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