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164.そういうこと
静まり返る教室に一人の空間、廊下で聞こえてくるのはリディアと、マーレンの声?
内容は聞こえてこないが、何か言い争っている?
ウィルは気になり、立ち上がる。足をそちらに向けて踏み出そうとして、ちょうど入ってきたリディアとぶつかりそうになる
「……あ」
「遅くなってごめんなさい、座って」
「――今の、マーレン?」
「そう。あなたを心配して」
「違うね。ヤツは俺とアンタが二人きりになるのを嫌がった。違う?」
リディアは、「違います」と断言して、ウィルを先に行くように急かして、そのあとをゆっくりと歩んでくる。
その慎重さに違和感を覚えたウィルは首を傾げながら、椅子に再度腰を下ろした。
目の前に立つリディアが「手を出して」と言う、ウィルがためらっていると、勝手にリディアは屈んで、ウィルの右手を掴んで、前に出させる。
「あのな!」
「――そのままでいて」
リディアが鋭くウィルに命じるから、ウィルは右手を掲げたままムスっと口を引き結ぶ。
それに構わず、リディアはタオルで巻いたアイスノンを手の甲――四指の中手骨を冷やすようにあてて、タオルの両端を手のひら側で結ぼうとする。
「いて」
「あ、ごめん」
「もう少し緩めるね」とリディアはウィルよりもしゃがんで低い位置に腰を下ろして、手をギュッと握ってくる。
俯くリディアの頭頂部が揺れる、つむじが見えて、なんだかそこを押したくなる。
「そういうこと……」
「え?」
「そういうこと、するから」
(だからケヴィンに、付け込まれるんだよ……)
リディアは「そういうこと?」と聞いた後、アイスノンを押さえながらウィルの顔を見上げてくる。緑柱石の瞳が真っすぐに飛び込んできて、ウィルは苛ついて怒っていたのに、胸が勝手に弾んで、顔を顰めた。
(俺もサイテー。なんで、こうやって――)
意識とは関係なく、鼓動が早くなる。リディアの顔を見たら、それだけで顔が赤らんで緩みそうになる。
「“そういうこと”をあなたが望んでいなくても、私はすべきことをするの」
リディアは、少し硬い声で早口で告げる。
「人を殴り慣れていないでしょ? 冷やしておかないと明日痛むよ」
「なんでケヴィンのほう、いかねーの」
普通はそっちに付きそうだろ?
ホントは行かせたくない、なのに思わず口にしてしまった。
わざとだ、自分についている理由をリディアに言わせたかったんだ。
「言ったでしょ。――私は必要だと思ったことをするの」
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