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166.知られたくない
声が掠れる。
――俺は、何を知られたくないのか。
葛藤が、頭をぐるぐる駆け巡る。
ミユやケヴィンのこと、それよりも知ってほしくないのは――。
「最後のほうだけ。だから何があったのかは、わからない」
それを聞いて、ウィルはわずかに息を漏らした。
安堵が胸を占め、何を知られたくなかったのか、気付かされた。
(アンタのこと、ケヴィンが言ったって、知られたくなくて――)
あんなクソ発言、きっと知ったら、アンタは――傷つくから。
「何があったのか、話してくれる?」
「俺が、殴った。それが全てだろ」
「殴る理由があったのでしょう?」
リディアは、ウィルの手を握ったままだ。その手を握り返したくなる。
会話に集中しているはずなのに、触れたいとか、抱きしめたいとか、距離を縮めたいとか、おかしい。
「わかんねーよ」
「そうね、気持ちなんて単純じゃないもの。説明できないものかもしれないね」
リディアはあっさりと追求をやめて、ウィルの手から、アイスノンごとタオルを外す。
「ただ、男の人の大きな声って、怖いのよ。だから女の子に怒鳴ってはだめ」
「……」
「でも、悔しいわよね。よく我慢したわよね。偉いと思う」
ウィルが黙り込むと、リディアは下からウィルを見上げて、寂しげに微笑む。
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