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167.救急箱
「――私ね、魔法師団にいた頃“救急箱”って呼ばれたことがあったの」
「え?」
リディアの声は、空間に溶け入るようだ。
いつもの言い聞かせるような強気な声とは違い、寂しげで何かを滲ませる声だ。
「魔法師団の彼らは戦闘専門。私は、あなたも知っての通り蘇生魔法があったからそこに呼ばれたの。戦闘に使える魔法は彼らには遠く及ばなかった」
また俯いて、迷うようにウィルの手の甲をいじるリディアの手。リディアの声は、少し苦しそうだ。
それよりも、指をいじられると……変な気になってくるんだけど?
「だけどね、反対に治癒魔法が使える魔法師が見事にいなくてね。だからいつも彼らの任務には同行していたのだけど、戦闘専門の彼らからは、あまり尊重してもらえなくてね」
リディアの手の動きから意識を逸したくて、会話に参加する。
実際内容は、結構興味がある。リディアの過去だ、彼女がどんな思いで、どんな体験をしてきたのか。一言だって聞き漏らしたくない。
でも、その無意識なのか意識している動作なのかわからないけど、どうにかして欲しい。
やめさせたくはないけど、やめてくれないと、気が散ってどうしていいかわからなくなる。
(しっかりしろ! 大事な話の最中だ)
「それで、――そう呼ばれたの?」
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