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168.的をつかれる
救急箱、あまりにも失礼で、ウィルはその表現をぼかした。リディアはそれに気づいたのか、苦笑を返す。
「私は、その頃、戦闘能力が劣る自分に常に劣等感を抱いていた。怪我を治す便利屋扱いの団員には、過剰反応していた。どうして腹を立てて苛立っていたのか、今ならわかる。自分の弱点だから、聞き流すことができなかった。余裕で『だから何?』、と流すことができなかったの」
リディアの話は、先程のミユたちとの揉め事にも通じるのだろう。ウィルは黙ることで続きを促す。
「だから『救急箱』って呼んだやつにも、言わなくていいこと言っちゃって」
「殴りかかった?」
「まさか。でも今思えば、言い過ぎた、恥ずかしい。……人ってね、言われたくないことを言われると過剰反応しちゃうの」
リディアは顔を上げて、今度はウィルを見据えて、言葉を伝えようとしている。
「悔しいのはね、的をつかれたからよ。言われたくないことを言われた時、人は人一倍拒絶反応を返すの。――あなたも、認めたくないかもしれないけど、認めないとね」
「俺は――」
魔法が使えないことを言われたのは、腹が立った。
去年、ミユはウィルに別れを言い出した時、理由は告げなかった。けれど、ウィルが魔法禁止になったことが面白くなかったらしい。「大学教授の息子で、将来安泰だと思ったのに」と、はっきり言っていたから、予想は当たっているだろう。
でも「そんなんだから魔法が使えない」との先ほどのミユの攻撃は、さほど胸に堪えていないことにウィルは今更ながらに気がついた。
「ミユに言われたことは……理由はともかく、事実だし」
多分、リディアは、ウィルを慰めようとしている。ウィルがミユからの言葉でさほど傷ついていないのは、わかっていない。
ただ――それって、多分、リディアのおかげだ。
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