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170.闖入者
「――湿布、貼ろうか」
ウィルが、リディアに掴まれたままの手を引き寄せようとしたその時。
リディアはウィルの手をあっさり離して、立ち上がろうとする。
その間の悪さ。あとほんの少し早く抱きしめていればよかった。
ウィルが伸ばしかけた手を彷徨わせている時、立ち上がりかけたリディアが顔を顰めた。訝しく思ったのは、一瞬。
リディアの身体が揺らいだと思えば、彼女がいきなりバランスを崩してウィルの方に倒れ込んでくる。
「っ、きゃ」
「わ」
なんで? と思いながら、慌ててその体を支えようとしたが間に合わなかった。リディアの顔が、ウィルの横顔を掠め、肩にぶつかった。
「……ぅっ」
「わりぃ、平気?」
「……ったあ」
リディアが呻いて、顔を手で押さえている。ごんって音がしたし、鼻か歯か何か固いものが肩に当たったし、痛かっただろうと思う。
必要はないけど、反射的にウィルはリディアに謝っていた。だって防げなかったし。
「リディア、大丈夫かよ」
肩に手を回して顔を覗き込むウィルだが、リディアは更にそのまま姿勢を崩して地面に崩れてしまう。
「な、おい? 何やってんの!?」
「足、しびれて、つ」
ウィルは身をのりだして、慌ててリディアの上半身を支えるが、彼女の手はウィルの肩から胸に滑り落ち、離れてしまう。
しっかりと腰に手を回して更に前のめりになって支えるウィル、なのにリディアはウィルにつかまろうとしないから地面に座り込んでしまう。
「な、どうした? 足痛いのかよ?」
「ちょっと、立てな、い。待って」
リディアの様子が変だった。
ウィルは中腰の姿勢で、乗りかかるようにリディアを支えていたが、彼女は目をぎゅっと閉じて呻く。
「リディア!?」
床についた両足が崩れ、力が入っていない。
「――何をやってるんだ! 貴様っ」
突然、開け放たれたドアが、勢いで壁にぶつかって激しい音を立て跳ね上がる。
それが閉じる前に、手にした箱を机上に向かい放り投げたマーレンは、狭い通路を肩だけでなく全身を怒らせてズカズカ部屋に入ってきた。
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