171.お子様みたいです

1/1
前へ
/367ページ
次へ

171.お子様みたいです

「なんだよ、急に入ってくんなよっ」 「うるせえぞ、俺が入ってこなきゃ何する気だったんだあ? この低能ヤリチンが」  ウィルは、胸ぐらを掴んできたマーレンを睨みつけ、同じように胸元を掴む。  マーレンの鼻の頭には苛立たしげにシワがより、紫色の瞳はより濃く、深紫というよりも黒に近くなっていた。 「はあ? 俺がヤリチンなら、てめえは何だよ? 殺戮魔法をばらまいて、弱っちいものを殺して喜ぶ頭の可笑しいサディストのオ○ニー野郎が」 「何だと、きさま!」 「聞こえてねーならもう一度言ってやるよ。童貞」 「この、性病野郎がっ! 殺してやる」 「――ねえ。それ以上やり合うなら、両方の口を本気で縫い付けるわよ」  低く響いた声は、下から聞こえてきた。「あ」とウィルは慌てて、リディアに向かってしゃがみ込んで手を差し出す。 「リディア、ごめっ、平気か?」  リディアは、まだ立ち上がっていなかった。足を不自然に伸ばした姿勢で、ウィルを睨んだ後、伸ばされた手をパシッと叩く。  はっ、と鼻で笑う気配がしたが、リディアがそちらを無言で睨むから笑ったマーレンも黙る。  何の言葉をかけていいのかわからず、二人の男子が黙って空間が静かになったのは一瞬。  リディアが床に手をついて、足をそろそろと引き寄せて何とか立とうとしているのを見て、ウィルは改めて手を伸ばしかける。 「なんで、お前が怒っているんだ」 「……」  マーレンが余計なことを言うから、余計にリディアの顔がこわばる。 「お前には、何も言ってないだろう。お前を放ってこいつの相手をしたことは悪かった」  リディアは黙ったままだ。 「おい、マーレン」 「黙れ。貴様とは話さねえ」 (こいつ、ほんとにわかってねーのか?)  母親とか姉貴とか彼女が理由もわからず怒っている時、余計なことを言わねーほうがいいって、学んでねーのか。
/367ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加