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171.お子様みたいです
「なんだよ、急に入ってくんなよっ」
「うるせえぞ、俺が入ってこなきゃ何する気だったんだあ? この低能ヤリチンが」
ウィルは、胸ぐらを掴んできたマーレンを睨みつけ、同じように胸元を掴む。
マーレンの鼻の頭には苛立たしげにシワがより、紫色の瞳はより濃く、深紫というよりも黒に近くなっていた。
「はあ? 俺がヤリチンなら、てめえは何だよ? 殺戮魔法をばらまいて、弱っちいものを殺して喜ぶ頭の可笑しいサディストのオ○ニー野郎が」
「何だと、きさま!」
「聞こえてねーならもう一度言ってやるよ。童貞」
「この、性病野郎がっ! 殺してやる」
「――ねえ。それ以上やり合うなら、両方の口を本気で縫い付けるわよ」
低く響いた声は、下から聞こえてきた。「あ」とウィルは慌てて、リディアに向かってしゃがみ込んで手を差し出す。
「リディア、ごめっ、平気か?」
リディアは、まだ立ち上がっていなかった。足を不自然に伸ばした姿勢で、ウィルを睨んだ後、伸ばされた手をパシッと叩く。
はっ、と鼻で笑う気配がしたが、リディアがそちらを無言で睨むから笑ったマーレンも黙る。
何の言葉をかけていいのかわからず、二人の男子が黙って空間が静かになったのは一瞬。
リディアが床に手をついて、足をそろそろと引き寄せて何とか立とうとしているのを見て、ウィルは改めて手を伸ばしかける。
「なんで、お前が怒っているんだ」
「……」
マーレンが余計なことを言うから、余計にリディアの顔がこわばる。
「お前には、何も言ってないだろう。お前を放ってこいつの相手をしたことは悪かった」
リディアは黙ったままだ。
「おい、マーレン」
「黙れ。貴様とは話さねえ」
(こいつ、ほんとにわかってねーのか?)
母親とか姉貴とか彼女が理由もわからず怒っている時、余計なことを言わねーほうがいいって、学んでねーのか。
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