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178.彼のエスコート
ウィルをこの部屋に入れる前に、マーレンはリディアの足に気がついたのだ。患部をみせたわけではないが、歩き方でわかってしまったらしい。
結構、彼は観察力が鋭い。 確かに魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈する王宮で、王座争いをしているのだ、相手の弱点を見破れ
なくてどうする。
とにかく、その足でその靴を履くなとか言われたけれど、またその続きを言いにきたのだろうか。
「このままで平気」
マーレンは舌打ちして、いきなり屈んだと思えば、リディアの足首を掴んだ。
「ひゃっ、ハーイェク!」
「もう少し色っぽく叫べ」
なんですって?
蹴飛ばそうとしたけれど、顔面に当たってしまう。でも、裾をめくらないで!
「ちょっとやめて、ハーイェク」
「止めてほしけりゃ、名前を呼んでお願いしてみせろ」
「……」
リディアは口を引き結んだ。何を言おう、この偉そうな王子様に。考えていたら、彼は足首にそっと触れて「……お前なあ」と口を開いた。
「座れ」
「だから――」
「このまま足首、握りつぶすぞ」
リディアはマーレンを見下ろす。彼の声は苛立たしげで呆れた響きだが、膝を床について見上げてくる目は不安そうにギュッと寄せられている、まるで心配されているみたい。
触れている手も、優しい気がする。
「一度座ると、もう立てない気がするの」
「お前は……。――いいから座れ」
リディアは、仕方なく腰を下ろす。リディアがそうする気配を感じて、マーレンは立ち上がり、支えるように手を添えてくれる。
リディアはその仕草に、緊張した。
なんでもないふりをしたけれど、どうしよう。彼は意外と女性をエスコートすることに慣れているし、反対に自分は慣れていないことを思い知る。
「俺は、治癒魔法は使えねえ」
座りかけた姿勢のままリディアは、何を言うのかとマーレンを見つめ返す。至近距離の顔のリディアを見て、マーレンは目を剥いて、それから慌てたように顔をそらす。
「ええと、だから」
座ったリディアを前に、ウロウロと歩き回り、ハッと顔をあげて、戸口へと向かう。
リディアは、彼の挙動不審を気にしながらも、自分の左足首に手を伸ばす。パンツの裾をめくると、足首はやはりドーナツをはめたみたいにグルリと腫れている。湿布を貼ってあるからわからないけど、悪化しているのだろうか。痛みは同じくらいだ、拍動が伝わってくる。
「これやる」
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