180.困った顔しないで

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180.困った顔しないで

だから、それを履いたのはリディアの意志だ。生徒からの贈り物を、いけないと知りつつ貰って使用している。言い訳なんてしない。でも、彼の気持ちをちゃんと受け止めないと、それに対する返答をしないといけない。 「そんな状態で履くなよ。男の俺だって馬鹿げた行為だってわかる」  そう言ってマーレンは続ける。 「――ごめんなさい」  リディアは、彼の逸した目が迷うように揺れているようで、自分自身の気持ちも迷ってしまう。 「そんな言葉聞きたいんじゃねえ」  リディアは、無意識にわずかに眦を下げた。マーレンは生徒で、それ以外の何者でもない。  彼にとっては何かしらリディアを気に入る要因があったようだが、“お気に入りの先生”から逸脱して“それ以上のモノ”になってしまうのではないか。 「そんな困った顔するな」  マーレンはわずかに苦渋の残る顔で言い捨てて、手にしていた箱――恐らく靴の外箱をリディアの横の机に置く。 「お前が困るなら俺は帰る。お前が使いたいなら使え、いらないなら捨てろ。ただし、今のヤツは治るまでは履くな。明日もそういうのを履いてきたら――見てろよ」 「――え、何が」  リディアは会話の流れが急につかめなくなって、思わず聞き返す。 「また代わりのを送る」 「ハーイェク!」 「いつかお前が……俺をっ」  マーレンは何かを言いかけて、だが唐突に口を閉ざす。何かを言いたそうにして、けれど堪えるように口を結んで、そのまま踵を返す。 「あ、ちょっと」  リディアは立ち上がりかけて、でも足首の痛みに顔を顰めて、また座り込んでしまう。 「どんな状況でも、お前が使ってくれて嬉しかった」  マーレンは言い捨てて、扉をすり抜けるように出ていってしまった。
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