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181.結構センスはいいです
リディアはしばらく無言で座っていた。ハイヒールの靴を脱いで、足を楽にする。ストッキングを脱いで湿布を貼って、直に靴を履いていたから、それも辛かった原因かもしれない。
そして、マーレンが置いていった長方形の箱を膝に置いて、蓋を取る。
中は白い薄紙で包まれていて、それをめくると黒いフラットシューズがあらわれる。リディアは片方を手にして裏を見る。サイズはリディアのものだ。
「けっこう、高そう」
艶消し加工された本革の靴は柔らかい、そして足の甲の部分はV字のデザインで、仕事にも使える。彼自身はパンクもどきの格好が好きなのに、選ぶセンスは上品だ。
(お金、払うって言ったら怒りそうだよね)
どうしよう、でもタダでもらうわけにはいかない。
それに、お金を払えば貰っていないことになるわけじゃない。リディアが買ったもの、にはならない。
悩むリディアが顔をあげたのは、控えめなノックの音がしたから。
「あ、はい!」
授業があっただろうか、と思って時計を見ると、十八時。キーファが待っていると言っていたのを思い出して裸足のまま慌てて中腰になる。
「失礼します」
礼儀正しく、そして笑みを浮かべて入ってきたのは、ヤン・クーチャンスだった。マーレンの友人というよりも、王子の従者だという彼が一人で来るのは珍しい。
「ええと」
「突然申し訳ありません」
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