182.にこやかな従者の顔

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182.にこやかな従者の顔

 彼はそう言ってドアを開け放したまま、リディアの前に来る。男女が同じ部屋に二人きりになる時は、ドアを開け放つこと。それは、「何もしませんよ、自分は安全ですよ」のアピールになる。  もちろん、男性にとってはトラブル防止策であり、常識的な対応だ。  リディアは自分がそれを常にしていないことを、突きつけられた気がした。やっぱりそうすべきだろうか。  でも、ドアを解放しているということは、「込み入った話をしませんよ」というアピールになりそうで、彼らが心を開いて話をしてくれない気がして、リディアにはできない。    それを考えていたからだろうか、目の前に来たヤンの様子がいつもと違う事に気がついたのは、彼が目の前に来てからだった。 「――それ、殿下が選んだのですよ」  彼の声は平坦だった。いつもならば、そつなくにこやかに告げてくる言葉が、今日は重い。  一瞬、彼を通さなかったことに寂しいとかやきもちを焼いたのかなと思った。手のかかる子どもが離れていってしまったというような感情かと。  
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