184.つぎつぎと来訪者

1/1
前へ
/367ページ
次へ

184.つぎつぎと来訪者

 ヤンが出ていった後、リディアはしばらく放心していた。  次々に現れる人や、情報に頭がついていかない。そして、立てない。  時間にしては僅かだっただろう。ノックの音にまたもや慌てて背筋を伸ばす。この部屋は共有なのだ、予約はなかったと思うが、誰かが急遽利用を希望したかもしれない。  だが、立ち上がる前に、顔を覗かせたのはキーファだった。 「あ、コリンズ」  キーファが口を開く前に、リディアは壁時計を見上げた。  ――十八時二十分。  何も連絡せず、かなり待たせてしまった。慌てて立ち上がりかけて、でも痛みに立ち上がれずに、顔をしかめて再度座った。 (どうしよう、立てないかも) 「先生、そのままでいください。大丈夫ですか?」 「……平気」  自分のせいだ、最悪だ。 「待ち合わせの時間過ぎてしまって、ごめんなさい。その……」 「先生の部屋に伺ったら、こちらにいると教えてもらいました」  同室のフィービーには居場所を告げてあったから、彼女がキーファに伝えてくれたのだろう。 「先程マーレンとヤンが別々に入ってきていましたね」 「ああ」  リディアは少し間をあけて、説明する。 「ふたりとも心配してくれたの」  キーファは首をかしげる。眼鏡の奥の瞳は、訝しげだ。 「足首、先程より酷くなっていそうですね。手当はしていないのですか?」 「湿布しているから」  キーファは失礼します、とリディアの前に屈んでパンツの裾を持ち上げる。皆に怪我を見られて、もう恥ずかしくて死にそうだ。  私、なにやってるんだろ。 「キーファ!」 「保健室に行きましょう、背負います」 「いい! それはいい、本当に!!」  リディアが激しく首を横にふると、キーファは見上げてくる。  その瞳が据わっているように見えるのは、気の所為だろうか。 「でも立てませんね」 「少し休憩すれば、平気」 「痛み止めは飲みましたか?」 「……飲んだけど」 「痛みが続いているんですね」  キーファは息をついて、それから立ち上がる。そうすると、背の高さも相まって凄く迫力がある。椅子に座るリディアを見下ろすが、距離が近くて……その迫力が怖い。 「こうしましょう。玄関まで送ります、タクシーで病院に行ってください」  リディアもそのことは考えたが、今はできないと首を振る。 「ありがとう。でも、今は帰れない」
/367ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加