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184.つぎつぎと来訪者
ヤンが出ていった後、リディアはしばらく放心していた。
次々に現れる人や、情報に頭がついていかない。そして、立てない。
時間にしては僅かだっただろう。ノックの音にまたもや慌てて背筋を伸ばす。この部屋は共有なのだ、予約はなかったと思うが、誰かが急遽利用を希望したかもしれない。
だが、立ち上がる前に、顔を覗かせたのはキーファだった。
「あ、コリンズ」
キーファが口を開く前に、リディアは壁時計を見上げた。
――十八時二十分。
何も連絡せず、かなり待たせてしまった。慌てて立ち上がりかけて、でも痛みに立ち上がれずに、顔をしかめて再度座った。
(どうしよう、立てないかも)
「先生、そのままでいください。大丈夫ですか?」
「……平気」
自分のせいだ、最悪だ。
「待ち合わせの時間過ぎてしまって、ごめんなさい。その……」
「先生の部屋に伺ったら、こちらにいると教えてもらいました」
同室のフィービーには居場所を告げてあったから、彼女がキーファに伝えてくれたのだろう。
「先程マーレンとヤンが別々に入ってきていましたね」
「ああ」
リディアは少し間をあけて、説明する。
「ふたりとも心配してくれたの」
キーファは首をかしげる。眼鏡の奥の瞳は、訝しげだ。
「足首、先程より酷くなっていそうですね。手当はしていないのですか?」
「湿布しているから」
キーファは失礼します、とリディアの前に屈んでパンツの裾を持ち上げる。皆に怪我を見られて、もう恥ずかしくて死にそうだ。
私、なにやってるんだろ。
「キーファ!」
「保健室に行きましょう、背負います」
「いい! それはいい、本当に!!」
リディアが激しく首を横にふると、キーファは見上げてくる。
その瞳が据わっているように見えるのは、気の所為だろうか。
「でも立てませんね」
「少し休憩すれば、平気」
「痛み止めは飲みましたか?」
「……飲んだけど」
「痛みが続いているんですね」
キーファは息をついて、それから立ち上がる。そうすると、背の高さも相まって凄く迫力がある。椅子に座るリディアを見下ろすが、距離が近くて……その迫力が怖い。
「こうしましょう。玄関まで送ります、タクシーで病院に行ってください」
リディアもそのことは考えたが、今はできないと首を振る。
「ありがとう。でも、今は帰れない」
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