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185.強引だけど
キーファの表情は変わらない。けれど、訝しげと言うよりも、怒っているように見える。
「少し問題が起きて、それが終わるまで帰れないの」
「ウィルのことですね」
リディアは、返事をしなかった。ただ驚いていると、キーファは皆知っています、と告げた。
(……生徒同士のほうが、情報が早いものね)
「その足で残るのですか?」
「……そうね」
リディアはウィルの面談が終わるまでは待つつもりだった。つかまれば立てるし、廊下で待つことはできる。
キーファは「……わかりました」と、淡々という。その顔は、怒っても、不機嫌そうでもない。ただ諦めたような受け入れたようなさっぱりとした顔。
「では、固定します。触れますね」
「え?」
キーファが再度屈んで、リディアの足に触れる。彼の手にあるのは、固定用バンド。ゴム製の医療用バンドで、足首のサポートに使うものだ。
「昔、足首を捻ったときに使ったものです。家から取ってきました」
「コリンズ……」
確か、彼は一人暮らしだと聞いたけれど、家は近いのだろうか。
「恐らく先生は、受診しないと思ったので」
「ごめんなさい」
見通されている。
だって病院では、湿布と鎮痛剤の薬剤の処方をされるだけ。それに、病院は嫌なのだ。
キーファは、リディアの足首に固定バンドを巻いて、しゃがんだ姿勢のままちらりと顔を上げた。
「いつか、先生の心からの気持ちを聞きたいです」
「え」
「いつも、遠慮とか、立場を含んでの謝罪ですよね。素直に頼ってくれたら嬉しいのに」
リディアが二の句を告げずに、うろたえていると、キーファは立ち上がる。
「学科長の部屋の前まで送ります。その後、待っていますから先生の家まで送らせてください」
「コリンズ。何時になるかわからないし……」
「それが、先生がここに残ると言うのを認める俺の条件です。先生も譲歩してください」
口を開きかけたリディアは、コリンズの底光りする目に気圧されて、首を横とも縦ともはっきりさせないまま振って、結局「はい」と頷いた。
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