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186.ウィルの父親
学科長の部屋を出たウィルは、リディアを見て目を丸くした。
「リ……」
リディアを見て、ギュッと眉根を寄せて怒ったように口を開きかけたウィルだが、後ろからの声に顔を強張らせた。
「おや、……友達かい?」
ウィルの後ろから、続いて出てきたのは、淡いキャメル色のスーツ姿の男性。ウィルによく似た橙色の瞳に、赤みがかかった髪の毛に髭。穏やかそうな瞳が、眼鏡の奥で細められる。
明らかにウィルの父親だ。
「私(わたくし)、リディア・ハーネストと申します。境界型魔法領域の助教を務めております」
リディアはその堂々として人柄の良さそうな男性に、大きく頭を下げる。
「これは……先生でしたか。失礼しました。息子がこの度はとんだご迷惑をおかけしました。アーサー・ダーリングです」
アーサーは、人好きのする笑みを浮かべて、リディアに握手を求めてくる。
「存じ上げております。私共の監督が不十分なせいで、ご足労頂きまして誠に申し訳ございません」
リディアが恐縮しながらも手を差し出すと、大きな手で力強く握るアーサー。
「いいえ。いたずら坊主で手がかかり申し訳ないのはこちらです。先生の気を引きたいバカっ垂れですよ」
あなたのような美しい人ならなおさらですね、とウィンクまでしてくるが、とても様になっている。いやらしさがない。リディアの顔が赤くなってくる。
「親父……!」
「年甲斐もなく、何をはしゃいで馬鹿なことをしているのかと思えば、そういうことか」
「あのなっ、だから、違うって!!」
ウィルにちらりとリディアは目を向ける。顔を赤くして怒っているウィルだが、親子の仲は悪くなさそうだ、よかった。
「そのことですが……、ケヴィン・ボスの親御さんとまだ話せていないのです」
「ええ、聞いております。ここに来る前に謝罪の電話を入れさせて頂きました、この後息子と自宅に伺いますよ」
「私も同行させていただいてもよろしいでしょうか」
リディアが言うと、ウィルの視線を感じた。もの言いたげなそれは、「ついてくんな」だろう。
「それはどうですかな」
ダーリング教授は、さらりと拒否した。
「休み時間のことですし、教員もいない場でのこと。全てはうちのバカ息子の責任です。息子同士のトラブルです、私はそう説明しますよ」
「ですが」
「まあ、私はこういう対応は慣れているのでね。任せて頂きたい」
力強い言葉に、包容力のある対応。リディアは恐縮して、頭を下げるしかない。
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