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188.エレベーター
けれど、アーサーは茶目っ気のある表情で、全く場の雰囲気を悪くしない。そういうのがウィルは嫌なのかもしれないが、リディアは和んだ雰囲気につい口が緩む。
「あの、私――院生時代に先生にお世話になったことがありまして」
エレベーターを待つ間に、リディアは思い切って、アーサーに言い出す。問うように見下ろす彼に話を続ける。
「悪魔を封じる魔法陣に関して問い合わせをさせて頂きましたら、秘書の方から先生の論文をいくつか送っていただきました」
「――ああ。もしかして」
アーサーは、声を上げる。同時に、エレベーターが開くから、リディアは先だって中に入り、グランドフロアのGボタンを押して、ドアを押さえる。
「ハーネスト。ああ、あの時の――“悪意を封じる魔法陣”かな」
彼は目を見開いて、それからリディアを見て大きくうなずく。
「はい、私の修士論文の研究テーマです。昨年の魔法陣学会で発表しました」
「たしか――そうだ、覚えていますよ」
彼は、エレベーターの扉をリディアに代わって押さえながら、身を乗り出して口を開く。
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