132人が本棚に入れています
本棚に追加
189.頑張ろうね
「あの”隠れる少女”の印章を入れたのはどうしてかな? あの印章は意味がないとされていますが」
リディアの顔が緊張と興奮でどんどん熱くなってくる。口が回らない、頭が真っ白になる、全然口が動かない。
「私の好みです。私の魔力と相性がいいので、効果増強となる気がするので」
何をバカなことを、とダ―リング教授は鼻で笑ってあしらわない。
リディアの話を理解せず、流しててしまうわけでもない。
「印章はまだ効果が不明なものが多いですからね。実体験からのものですか、なるほど……興味深い」
むしろ、アーサーは益々楽しげに笑みを深くする。
「また、お話しましょう。今度の魔法科学学会は来られるのかな」
「確か先生は、講演をされますね。私は運営を手伝う予定です」
「では、またその時に」
扉が閉まる。有名人の教授が、名もなき下っ端研究員に声を掛けるなんて、普通はありえない。ましてや、「また話をしよう」なんて。
リディアはぼーっと立ち尽くし、はっと気がついて慌ててボタンを押す。締まりかけた扉が再度開く。
「ウィル。ウィル・ダーリング?」
明らかに不機嫌そうに前を睨みつけていたままのウィルが、いきなり開いた扉に驚きでぎょっとしている。
「あなた、大丈夫?」
「え、あ、ああ」
「また明日、話しましょうね」
リディアが大きく頷いて、ガッツポーズを作ると、ウィルは驚いた顔のまま、つられたように頷いた。
そのまま扉が閉まるので、リディアはアーサーに向かい、再度頭を大きく下げて見送った。
最初のコメントを投稿しよう!