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201.ステップ
キーファは、今日は譲る気になれなかった。意固地になる自分の感情が、どこからくるものかは、わからなかった。ただ今回はリディアの遠慮を無視しても押し切る、そう決めて、実際リディアは躊躇いながらもキーファの提案を受け入れているから、ついそれを強要してしまう。
ひょこ、ひょこと頭を揺らし歩くリディア。キーファは歩幅をあわせてリディアの背の高さにあわせて、腕を低く保つ。
リディアはいつもハイヒールだが、今はフラットなヒールのない靴を履いている。
それだけで、背がいっそう低く感じて、彼女の有りように頼りなさを覚える。
変質者がいたら、それだけで狙われそうだ。
キーファは、誰も並んでいないバス停の標識の横にリディアを誘導して、固く口を引き結ぶ。付き添ってよかったと思う。
「コリンズ」
わずかな沈黙に、リディアが口を開く。
「足首を固定してくれてありがとう。さっきより歩ける」
「病院には行かないのですか?」
「明日の午前は授業も会議もないから、受診してから大学に行くことにした」
「そうですか」とキーファがわずかに安堵を滲ませると、リディアが頼りない笑みを見せる。生徒に心配をかけたと、気にしている顔だ。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに。キーファの胸の奥で、そんな声が囁く。
「俺、ケイと、話してみますよ」
「みんなの間でも浮いていない?」
「あまり交じろうとしてこないから。前の大学の話もしないので、何があってここに来たかもわかりません。――院生とは親しいみたいですが」
「院生と?」
リディアがなぜ? と首をかしげている。「接点ないよね」と。
「私もまた機会を見つけて話してみる」
「二人きりは止めて下さい」
「でも、そういう場も必要だから。誰かがいると本音って出せないでしょ?」
リディアの言いきる顔は、キーファのその意見に耳を貸さないという顔だ。キーファは口を開いて、どう諭そうかとわずかに考える。
その間に、後方から光が差し込んでバスが真横に止まる。
リディアは、キーファの手を離して手すりにつかまりながら、左足を庇いながらゆっくりとステップをあがる。
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