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205.彼女への感情
そしてリディアは瞳を揺らし、僅かな沈黙の後口を開いた。
「今度の実習、あなたにリーダーになってもらう予定よ」
「俺が?」
正直、理解ができなかった。自分は魔法が使えない。課題の作戦案は提出した。だが自分は補佐に回るように立案した、指揮をとるべきではない。
「ええ。あなたが適任だと思うから」
「魔法が使えない俺が? 誰も納得しませんよ」
リディアは、その意見には納得がいかないとでもいうように、首を傾げる。
「あなたはこれまでも学内での委員会の委員長や、サークルの会長、リーダーシップをとってきたわよね」
「それは魔法とは関係のない場だからです。これまで演習や学年末の団体戦でも僕は支援に回っていました」
「――これまで対魔獣の演習は、檻に入った魔獣を各自が攻撃して倒すことだったわね。そして学内の模擬戦もチーム編成しているけれど、実際の内容は個人プレーがほとんど。だからチーム戦は今回が初めてよ」
「だからといって、俺が指揮を取るのは――」
「私が見た限りでは、あなたは人の上に立つことができる、纏めることができる。そして今回に必要なのは、状況を見極めて人を動かすことができる、ということ」
キーファはしばし黙り、それから椅子に座りなおす。少し考えて自分が推された理由を考えてみる。
「今回の実習目標は、魔獣を倒しつつ目的地に到着すること。目的は、魔法を用いてチームワークを展開させるということ――」
「そう。協力しないと達成できない。個人プレーに秀でた突撃王が何人も好き勝手にしたらどうなる?」
「――」
「個性が強くて難しい仲間もいるけど、あなたは彼等に信頼されている。誰にでも公平な態度で、常に冷静。あなたは自分を信じていいのよ」
彼女はいつも穏やかで、優しい笑みを浮かべる。大人びているけれど、作った笑みだ。本当は年下で、多分もっと違う笑い方をするのだろう、とふと思う。
「先生は――」
ん、と目を瞬く瞬間、彼女は一瞬幼い顔になる。先生と言われることに戸惑いがあるような顔。
キーファはそれを見るたびに、何か不思議な感情が宿るのを、そのまま無視して続ける。
まだこの感情はわからない。
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