206.リーダー

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「人を従わせる時、どうしたらいいと思っていますか?」 「それは、あなたのほうが得意だと思うけれど。もう自分でやっているでしょ?」 「先生の意見をきかせて下さい」  リディアはキーファの本気を悟り、突然真剣に考え始める。 「私見だけど。――相手を尊重することだと思う」  リディアは、見事なエメラルド色の瞳で真っ直ぐに見つめてくる。そうすると、向き合っているのに、まるで遠くから言葉を聞いているようで、碧い海に吸い込まれるような感覚になる。  乗客が二人おりて、運転手以外は誰もいなくなる。    二人だけの世界で、彼女の言葉がバスの振動も気にならないくらい染み込んでくる。  自分の居場所がわからなくなりそうで、キーファは視線を外したいのにできない。海の中で、その声を聞いているような気分だ。 「相手をよく見て、得手不得手を知り、どこに配置して何をやらせるのが適切か考える。相手の経験と能力から、それを指示した理由を自分の中に据えて、敬意を持って伝える。勿論納得してくれないこともあるけれど――」 「経験の浅い学生には、得意なものが見当たらないものもいます」 「そんなの現場の人間だってそうよ。明らかにこの場に向いてません、という相手でも、そこに配置しなきゃいけない時も少なくない。さっきの言葉と矛盾しているけど」  でも――、と彼女は続けた。 「偉そうに言って、自分がそうできていたのかは――難しいかな。後悔ばかり」  リディアの寂しげな口調に改めて彼女を見返したキーファの目に、何か遠くを見つめるように目を逸した彼女。  その視線を合わすことができない。ふと思う、彼女はここに来る前に、過去に何かがあったのだろうかと。
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