2 公開修羅場

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「ちょっとちょっとちょっとちょっと!こういうの困るのよ君、これ君一体どういうこと?」 嫁が飛び出してくとすかさず、ぷりっとした尻を振りながら、フロア部長が駆け寄ってきた。 己の“事なかれ主義”を“リスク管理”といって憚らないこのクソ上司は、厚顔無恥にも、さっきまで奥にいたにもかかわらず、忙しいフリをしてやりすごしていたのだ。 「部長…」 私は潤んだ目を向ける。 「兎に角、ちょっと打ち合わせ室まで来てくれる?そこで事情聴取するから」 「…はい」 私はぎゅっと胸にスマホを握り締め、項垂れて部長のプリ(ケツ)の後に従った。 バタン。 自動ドア横の小さな部屋。打ち合わせは、入り口の扉を閉じると、途端に密室になる。 部長は、ドカっと尻を椅子に下ろすと、型通りの説教を始めた。 私は、項垂れて顔を俯かせる。 「君、飛んだことをしてくれたね、まさか、顧客の医者と恋仲に。しかもそれが、不倫だなどと、冗談じゃない」 「でも…私たち、本当に愛し合っているんです!たまたま、出会った順番が違っただけ…」 ドンッ。 部長(プリケツ)が、机を叩いて威嚇する。 「何を言ってるんだ君! 愛だの恋だの、高校生じゃないんだぞ! いいか?これはねえ、我が社のコンプライアンスにも関わる問題なんだ。 君の辞職は勿論のこと、場合によっては賠償請求も…」 くっ、ククッ。 クックックック… 私は、思わず肩を震わせた。折角我慢してやっていたのに、つい、笑いが漏れてしまう。 私が、泣いていないと気づいた部長が、訝しんで顔を覗き込む。 「な、何だ。何か言いたいことでもあるのかね?」
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