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私は、胸に抱えたスマホをパッと彼の前に出した。音量をさっきから少しだけ下げ、外に聞こえるか聞こえないかくらいに調節すると、酔った部長の声が響く。
『ガーッバッハ。男なんてみんな、ばら撒きたい、スケベな生き物なんだあ!おまえらぁ、 枕でもなんでもやって、契約とってこおおおい!!』
「な、これ…ちょっと、ちょっとやめなさい!」
私はもう、俯いてなどいない。
慌ててスマホを奪い取ろうとする部長の腕から逃れ、彼を半眼で見据えた。
「部長の指示、なんですけど?」
「や、やめたまえ、そんなのはね、ただの酔った時の戯言、そんな脅しには…あっ、やめてっ、あーちゃんやべてっ」
私が音量を上げようとすると、焦った部長は、ケツを振り振り懇願する。
「いい?私はあくまで自主的な寿退社。退職金は85%支給。今日のことは部長のところでもみ消して、ね❤️」
「あ、い、いや。でも…さすがにそれは…」
私は、音声をやめ、スマホを動画に切り替えた。
見えるように、画面を部長に向けてやる。
『あ、あひっ、あーちゃんやべてっ。きもっ、気持ちいい〜〜〜っ、ひでぶっ』
『あらぁ、ゆっくん。ブタが人語を喋っちゃダメでしょお?こーゆー時は、なんて言うのかなぁ?言ってご覧、さあ』
『ブ、ブヒブヒブヒブヒッ。もっと、もっとゆっくんのお尻、打ってくださあああいっ』
『さあさあさあさあ、もっと鳴いて。
無様に、鳴けえええっ』
『ブヒヒィイイイイインッ』
「……きもっ」
ブツッ。
音声とともに流れる醜悪な画面を切った後も、部長は恥いるように肩を縮めている。
私は、その肩に顔を寄せるようにして彼の耳に囁いた。
「ねえゆっくん?
いい子のゆっくんは、あーちゃんのお願い、ちゃんと聞いてくれるよね?
…でないとこの動画、全世界に流れちゃうかもなぁ」
「わ、分かり…マシタ」
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