2 公開修羅場

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その夜。 私は、しーくんと逢っていた。 躊躇う彼に、私の方から「どうしても逢いたい」、と連絡したのだ。 「あの、さ。…俺たちしばらく…」 彼が言わんとする前に、私は彼の胸に泣きついた。 「しーくん!あーちゃんね、あーちゃん...すごく、 怖かっ...あ、あ、あああああっ」 「あ、あーちゃん...!」 背中に手を回そうとして、躊躇う彼。 私は自分の後ろに手をやって、強引にその腕を回させた。 「あのねあのね?会社に、奥様が現れて」 「あ、ああ。今日嫁が...そっちの会社に行ったらしいじゃん。それで…家のほうが大荒れ…」 「ねえ、奥様ったら酷いのよ?そりゃあ、怒るのは仕方のないことよ? だから私、誠心誠意謝ったわ。膝を突いて頭も下げた。それでも許してくれなくて、私たちの“真実の愛”をつげたら激昂されて…」 「あ、あの、真実の愛って、俺は別に」 「私のスマホを取り上げられて、解錠しろって迫られて」 「あの…」 チラッ。 私は、覆っていた手から顔を上げると、上目遣いに彼を見つめた。 声のトーンを低く落とす。 「…ホラ、しーくんってさ。ハメ◯り大好きじゃん?一昨日の夜にシた時の動画が、未編集で残ってて。 その後のふたりの会話とかも、丸ごと聞かれちゃったの…」 「え、えええっ!?」 彼の顔が、みるみるうちに青ざめた。 ふふふ、それはそう。 一昨日と言わず最近の彼は、奥様(ブタ)に対して、最悪の悪口を言っていた。 それこそ、私でさえヒくくらいに。 ま、本当は私がわざと聞かせたんだけどね。 やれやれ、やっと。 もう彼も分かっただろう。夫婦関係の再構築など不可能。 もう、後戻りは出来ないのだと。 後ろに回していた腕をだらりと下げて、言葉もなく立ち尽くす彼に、私は再び擦り寄った。 フフ。医者だろうが何だろうが、彼の本質は調子のいい八方美人。 ただし、最高級の、誰もが羨むステイタスを有する、八方美人だ。 …チョロいわ。
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