1 不貞

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「やっべ、もう8時回ってる、あー、こりゃ遅刻確定だわ。 あーちゃんは大丈夫?」 「うん私、今日は直行。長沢内科に10時からだから」 「そっか、いいな、ゆっくりできて。じゃあまた」 「うん、バイバイ。頑張って」 結局あれからもう一回して、彼、紫倉先生(しーくん)は、大急ぎでホテルの部屋を後にした。 ふう。 私はゆっくり息を吐くと、徐にベッドボード上の内線の受話器を取った。 「あ、すいませーん、朝食、ルームサービスでお願いしまーす。そう、2人分。あ、サラダはドレッシングなしでお願いしまーす」 支払いは彼が済ませてくれている。 彼と過ごした朝はいつも、一流ホテルの優雅なブレックファストの時間と決め込む。 贅沢な時間は、リッチな彼を持つ私の特権だ。 彼、紫倉先生(しーくん)は、ここいらで一番の大病院の、内科の先生だ。 年齢は29歳、2歳年下の奥さんと5歳の息子さんがいる。 奥さんとは、彼がまだ初心な研修医の時に合コンで知り合い、後は授かり&スピード婚というお定まりのコース。 ちなみに私は、しーくんの病院(ところ)のスタッフではなく、彼の病院に出入りしているMRだ。 MRのお仕事は自社の医療機器やお薬を使ってもらうための、製薬会社の対お医者様向けの営業といったところ。 紫倉先生とは、先輩の接待に着いていった席で知り合い、3度目の接待の時に彼から誘われて、今の関係になった。 といっても私は、別に枕営業とかのつもりで、こんなことやっているわけじゃない。 枕かけて、ガツガツ営業成績を伸ばしたいなんて、それほど私は、この仕事にしがみつくつもりはない。 私の目的は、リッチでイケメンなお医者様との出会いそのものだった。
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